羽生九段 敗れても底力 藤井王将苦しめたが…「終盤のどこかで多分間違えた気がします」

[ 2023年2月27日 05:29 ]

第72期ALSOK杯王将戦第5局第2日 ( 2023年2月26日    島根県大田市「さんべ荘」 )

第2図
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 敗れたものの、羽生善治九段(52)がみせた終盤の猛追劇。藤井聡太王将(20)に完敗寸前まで追い込まれながら、ものの見事に体を入れ替えて若き王者を最後まで苦しめた。一歩及ばすカド番に立たされたが、その内容は迫力十分。第6局以降の戦いに向けて期待度100%の惜敗だった。

 追い込まれた英雄が突如として牙をむいた。完敗ムードが漂いつつある終盤戦。羽生王の右サイドから角竜の大駒2枚に攻められ、絶体絶命的状況となった76手目に打った△4一金(第2図)が妖しいオーラを周囲に放っている。

 「ほかの手もいろいろ考えたのですが、ちょっと受からない。じり貧になってしまうので。しようがないかな」と達観しての選択だったが、これを見た藤井の体が氷のように固まった。予想にない手に脳内は負のループに陥っていたことだろう。75分の長時間を消費して打った▲5三銀には疑問符が付いた。ロープを背にしてパンチを受け続けていた羽生が、我が意を得たりとカウンターを繰り出す。78手目の△5六歩で藤井王の上部にスペースをこじ開け、さらに80手目△4五桂と畳みかける。藤井の優位を徐々に削り取り、気がつけば体ひとつのリードを奪っていた。

 控室の検討陣も大盤解説の観衆も「羽生逆転」を確信したその時点で、皮肉にも羽生本人は「まとめづらい将棋だと思っていた」と明かす。84手目の△6九飛は誰がどう見ても決定的な一打に思えたが「それではなく、違う手を選ぶべきでした」と意外な心境を口にした。攻めを継続する場面で選んだ88手目の△5一銀打に誤算が隠されていた。大熱戦の終局は唐突に訪れた。

 「ずっと難しい将棋だった。終盤のどこかで多分間違えた気がします」

 痛い敗戦でシリーズはカド番へと追い込まれた。夢のタイトル100期に到達するには2連勝しかない。「第6局はしっかり修正して、いい将棋を指せればと。また切り替えて、集中して頑張りたい」。ブレーク寸前で雲散霧消した白星をいつまでも悔やむわけにはいかない。次の佐賀対局は、得意の先手番だ。(我満 晴朗)

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