藤井王将が初防衛王手!出雲で神話に残る激戦に勝った 対羽生戦で棋界最速10勝到達

[ 2023年2月27日 05:30 ]

第72期ALSOK杯王将戦第5局第2日 ( 2023年2月26日    島根県大田市「さんべ荘」 )

須佐之男命(すさのおのみこと)に扮して、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治する藤井王将(撮影・三島 英忠、西尾 大助、河野 光希、藤山 由理)
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 藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=に羽生善治九段(52)が挑む将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)第5局は26日、島根県大田市の「さんべ荘」で第2日が指し継がれ、藤井が101手で勝利した。羽生の十八番、後手横歩取りを破って3勝2敗とし、初防衛へ王手をかけた藤井は羽生戦の10勝目(3敗)へ棋界最速で到達。第6局は3月11、12日に佐賀県上峰町「大幸園」で行われる。

 終局後、腰を上げるのに腕力の支えを要した。大盤解説会場へ向かう足取りは重く疲労感をにじませた。24日の対局場検分前日、都内で優勝した朝日杯2局を消化。藤井は今期初めて先手番を逸する危機を回避し、歴史的名勝負を制した。

 「1日目から激しい展開。長考した場面、どうなっていたかは分からない局面も多かった」

 それが偽らざる本音。この日最長1時間15分の考慮を経て77手目▲5三銀と決めにいったかに見えたが実は違った。「(直前の)△4一金で手が広い。いい攻めが分からなかった」。選択肢の多い局面へ相手を誘い、逆転打を放つえん曲的指し回し。羽生将棋の代名詞「羽生マジック」を思わせる手渡しに、史上最年少5冠は迷いの渦中にいた。

 とりわけ80手目△4五桂に形勢を悲観した。5三へ放った銀を羽生に与え、△5七銀を許すともう詰みがある。好転を自覚したのは終局の6手前だった。

 「天使の跳躍は後手にとってうれしかったはず。(先手の藤井が)普通切り捨てる変化を突き詰められるのが凄い」。解説の西川和宏六段(36)がその踏み込みに驚いた。

 天使の跳躍とは桂の特性を生かした進撃を指す。61手目▲8五飛(第1図)の旋回は桂取り。羽生は手順にその右桂を逃しつつ△7三桂で逆に飛車取り、△6五桂で金取り、さらに△7七桂不成で王手と三段階活用した。

 その反撃が当然織り込み済みの藤井は▲8三飛成、▲6三竜と進入する。△6二銀の竜取りに逃げず▲6四角の王手。△3二王には再び竜を逃げず▲5二飛と6一金の利きに飛車を放って打ち合った。切っ先で刃をかわす藤井将棋の醍醐味(だいごみ)だった。

 羽生戦の勝ち星を10勝(3敗)に乗せた。所要13局での到達は、永瀬拓矢王座(30)が21年4月に更新した14局を2年ぶりに抜く棋界最速。立会人の福崎文吾九段(63)は王座を92年、羽生との5番勝負で失うなど対戦成績1勝10敗とその1勝の重みを知るだけに「どうしても登れない(テレビ番組)SASUKEの壁みたいなイメージ」という。タイトル戦初対決の羽生から3度リードを奪った藤井について「相手の得意から逃げず、米長邦雄永世棋聖が“乱戦をさらに複雑化して楽しむ”と評した羽生将棋を上回った。大したものです」と指摘した。

 藤井は先手番の連勝を27へ伸ばし(未放映のテレビ対局を除く)、終局後の記念写真は神話の国・島根にちなんで須佐之男命(すさのおのみこと)に扮した。「スコアは意識せず、次局も精いっぱい指したい」。英雄であり破壊の神だったその力も借りて第6局、後手の不利をはね返して初防衛へ直進する。(筒崎 嘉一)

 ≪須佐之男命6テイク撮影にも笑顔≫須佐之男命は日本神話に登場し、暴風と厄払いの神として信仰されている。数々の乱行で天上界を追放され、出雲の国に降り立った。「八俣大蛇(やまたのおろち)」に食べられそうな姫を助けるためにこの怪物を退治したとされる。藤井が着用した衣装と八俣大蛇は、地元の神楽団「大屋神楽社中」が演目の際に実際に使うもの。りりしさを追求するため、藤井は体勢や刀の軌跡を試行錯誤。6テイクにも上る撮影となったが、指示に対しては「あ、はい」と笑顔を向け、快く撮影に応じていた。

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