「どうする家康」の時代考証 小和田哲男氏「やや柔軟に」

[ 2023年1月13日 09:00 ]

大河ドラマ「どうする家康」の一場面(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NHK大河ドラマ「どうする家康」で時代考証を務めている歴史学者の小和田哲男氏(78)が考証のポイントなどを語った。

 8日放送の第1回で、徳川家康(松本潤)と今川氏真(溝端淳平)が瀬名(有村架純)をめぐって争う場面があった。

 「物語は家康と瀬名が相思相愛になる流れになっている。当時、武士は親が決めた相手と結婚するのが普通だったので、その流れに関しては少し悩んだ。ただ、考えてみると、可能性が全くないわけではない。例えば、秀吉が正室のねねと結婚するのは、親が決めたわけではなく、本人同士の恋愛だった。家康と瀬名の恋愛の可能性もゼロではない」

 大河での時代考証の役割とは、どんなものなのか。

 「まずチーフプロデューサー、脚本の古沢良太さん、私で、どんな人物像にするのか相談する。そして、古沢さんが書いた脚本を私が読み、史実として間違いがないかどうか確認する。完全に誤りであることを裏付ける史料がある場合、修正を要請する。そうではない場合は、可能性があることなので、許容範囲となる」

 大河の時代考証を務めるのは今作で8作目。これまで「秀吉」(1996年)、「功名が辻」(2006年)、「天地人」(09年)、「江~姫たちの戦国~」(11年)、「軍師官兵衛」(14年)、「おんな城主 直虎」(17年)、「麒麟がくる」(20年)に携わってきた。

 「『功名が辻』で脚本家が、本能寺の変で織田信長が鉄砲を持ち出して明智光秀の鉄砲隊と銃撃戦になる場面を書いた。さまざまな史料を読んだところ、本能寺で信長が鉄砲を持ち出したという文献はなかったので、修正をお願いした。しかし、本当に鉄砲は存在しなかったのかと問われれば、それは分からない。たまたま文献に書かれていないだけかもしれない。それで、その場面は放送に至った」

 「麒麟がくる」は、明智光秀の生死が不透明なエンディングだった。

 「史実として光秀は竹やりで殺されたと一般的には知られている。しかし、脚本家の池端俊策さんと、1年間主人公を務めた光秀がそのような殺され方をするところは見たくないという話をし、あのような終わり方になった。その後、NHKには『光秀は天海になったのか?』という反響もあったそうだが、それはないので、機会があればそういう話もしたいと思っていた」

 史実とエンターテインメントの融合が大河の魅力と言える。

 「私が大学で教えていた頃、学生に日本史を好きになった理由を尋ねると『高校の授業が面白かったから』という答えと同数くらい『小学生の頃から大河ドラマを見て歴史は面白いと思っていたから』という答えがあった。大河は単なるドラマではなく、日本人の歴史認識、歴史意識を形作る大切な作品だと思う。みなさんにより興味を持っていただくために、がんじがらめに時代考証するのではなく、やや柔軟に時代考証するのが私の務めだと考えている」

 この作品では、戦乱の世で、生死を分ける選択に迫られ悩み続ける家康が描かれる。

 「タイトルを聞いて、面白い作品になりそうだと思った。私たちは歴史の結果を知っているから、家康に『成功者』のイメージを持っているが、実際は紆余曲折を経て、本当に迷いながら決断して最終的に戦国の覇者になっている。脚本の古沢さんは先入観なしに、結果論から外れた『生の家康』を書いてくれると思う。私自身も『家臣に支えられた家康』というイメージを持っているので、周りの意見を聞きながら選択していく人物像はその通りだと思う」

 新・家康像への期待が膨らむ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2023年1月13日のニュース