西村京太郎さん死去 91歳 トラベルミステリーの巨匠 鉄道と旅を愛し晩年まで全国飛び回り執筆

[ 2022年3月7日 05:30 ]

鉄道模型のジオラマの前で写真に納まる西村京太郎さん
Photo By 共同

 「十津川警部シリーズ」などトラベルミステリーの第一人者で、推理小説作家の西村京太郎(にしむら・きょうたろう、本名矢島喜八郎=やじま・きはちろう)さんが3日午後5時5分、肝臓がんのため、神奈川県湯河原町の病院で死去した。91歳。東京都出身。葬儀は近親者のみで営まれ、後日お別れの会を予定している。喪主は妻瑞枝(みずえ)さん。多くの作品がテレビドラマ化された国民的人気作家だった。

 戦後を代表するベストセラー作家が静かに旅立った。

 今年1月には「土佐くろしお鉄道殺人事件」を新潮社から刊行したばかり。関係者によると、昨年末から体調不良で入院し、療養していた。

 工業高校を卒業後、人事院に就職。11年勤め、1960年に作家になりたいとして退職。トラック運転手や私立探偵などをしながら、懸賞小説に応募を続け、ストーリーテラーとしての力を付けていった。61年「黒の記憶」でデビュー。初期は松本清張さんらが人気を博した時期で、西村さんも社会問題をテーマにした作品を書いたが、推理小説に向くとして鉄道を舞台に選んだ。新型車両や新路線は「必ず見に行くし、乗りに行く」という鉄道好きだ。

 転機は当時の子供に人気だったブルートレインを題材にした78年発表の「寝台特急殺人事件」。夜行列車で全国を旅した若き日の思い出が着想の原点となった。実際に列車に乗り、東京から鹿児島まで一睡もせずに取材して書き上げ、大ヒットした。ドラマで人気キャラクターとなった警視庁捜査1課の十津川警部が事件を解決する物語。

 79年「夜間飛行殺人事件」、80年「終着駅殺人事件」の“十津川警部シリーズ”も相次いでヒット。73年の「赤い帆船」で初登場した警部は多くの人に親しまれた。

 そして一躍ベストセラー作家となり「約500万円だった年収は5000万、1億円、2億円とはね上がった」という。80年代後半から90年代半ばまで所得番付の作家部門で赤川次郎氏に次ぐ2位を続け、98年から納税額が公表された最後の04年までは7年連続1位。最高年収は7億円と計算された。

 96年1月に脳血栓で倒れ、左半身にまひが残った。療養を機に神奈川県湯河原町へ転居。それまで独身だったが、70歳の時に秘書を務めていた10歳年下の瑞枝さんと結婚した。リハビリで執筆を継続できるまでに回復し車いす生活ながら元気に執筆を継続。年6回の取材旅行で計12社分の小説を書く生活を長く続けてきた。400字詰め原稿用紙で月400枚を書き上げ、生涯で約650冊を刊行。累計発行部数は2億部を超えた。

 「疲れたら、そのまま寝ることができる」と布団に腹ばいで寝そべり、手書きで執筆する独特のスタイルで名作を生み出した西村さん。最後まで多くの人を楽しませ続けた。

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