藤井棋聖、3連勝王手へ約80年前に生まれた戦法“土居矢倉” 王位戦7番勝負第3局第1日

[ 2020年8月5日 05:30 ]

将棋の第61期王位戦7番勝負第3局の1日目を終えた藤井聡太棋聖(日本将棋連盟提供)
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 木村一基王位(47)に藤井聡太棋聖(18)が挑む将棋の第61期王位戦7番勝負第3局が4日、神戸市北区の中の坊瑞苑(ずいえん)で始まった。連勝で迎えた先手の藤井が、戦型に約80年前に生まれた「土居矢倉」を採用し、木村に持ち時間を使わせる場面があった。1日目は木村が46手目を封じ、2日目の対局は5日午前9時に同所で再開される。

 互いにゆっくりとした駒組みが続いていた昼前、先手の藤井が34分考え、自陣6九の金を5八に進めた。盤上に出現したのは、通常の「矢倉」とは異なる「土居矢倉」の陣形。「う~ん」という感じの木村はそこから41分も考え、そのまま1時間の昼食休憩に突入。対局再開後もさらに5分悩んでから、ようやく自陣の駒に手を付けた。

 土居矢倉は太平洋戦争前の1940年(昭15)に指した土居市太郎名誉名人がその後、好んだことにちなんで名付けられた。A級棋士の一人、稲葉陽(あきら)八段によると「王の守りの堅さよりバランス重視」の戦型。最近、再流行し指されることがあるが、この戦前生まれの戦型を、平成生まれの藤井が用いたためか「18歳が指す将棋とは思えない」「昭和の趣」などファンの驚きの声がネット上にあふれた。実は藤井は18年2月の王座戦2次予選でも用いており、2年半ぶり2回目となる。

 以前は角換わりが多かったが、最近、新しい“エース戦法”として同じぐらい多用するのが矢倉。初タイトルを獲得した棋聖戦5番勝負でも渡辺明王将(36)=棋王との2冠=から挙げた3勝はいずれも矢倉からだった。第2局から3週も間隔が空いた今回、入念に準備した作戦が20以上もあるといわれる矢倉の一つ、土居矢倉だったとしたら、研究の奥深さに改めて感嘆させられる。

 「矢倉を制する者は棋界を制す」。かつて加藤一二三・九段(80)や中原誠16世名人(72)らがしのぎを削っていた昭和時代、そういわれてタイトル戦で多用された。藤井はその格言を極めようとしているのか。手が付けられない最近の強さに加え、今年度ここまで6戦全勝の矢倉の使い方でさらに幅が広がれば鬼に金棒だろう。

 勝てば2冠に王手がかかる本局。本格的な戦いは2日目に持ち越されたが、巻き返しを図る木村と死闘となるのは必至。藤井マジックはまだ用意されているのだろうか。(窪田 信)

 ▼土居矢倉 代表的な矢倉囲い・金矢倉は王が8八の深い位置にあり、金銀3枚が密着しているため敵からの攻めに堅い。土居矢倉は金銀の連結が弱く、王も7八にあるため弱いが、攻めに対応して逃げも打てる懐の深さがある。日本将棋連盟の前身、東京将棋連盟会長・土居市太郎名誉名人が好んだ戦型といわれる。 

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