親をなくした子供たちが一歩を踏み出す瞬間…映画「シンプル・ギフト」劇場公開目指す

[ 2018年5月27日 15:45 ]

ニューヨーク公演での感動のフィナーレ
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 エイズで親をなくしたアフリカ・ウガンダの子供たちや東日本大震災で津波によって家族を奪われた東北の子供たちがブロードウェイの舞台に立つまでを描いた、ドキュメンタリー映画「シンプル・ギフト はじまりの歌声」(篠田伸二監督)がこのほど完成。今秋の劇場公開、さらに世界のテレビ局での放映を目指している。

 絶望の淵から人が希望の光を見出す瞬間、下を向いていた視線が上がる瞬間…その瞳に映像を通じて見つめられると、こちらも視線をそらすことができなくなる。人はどのような瞬間に立ち上がり、自分の人生の新たな局面を切り開いていこうという覚悟が決まるのか。女優・紺野美沙子の優しい語り口をナビゲートに、自らに問い続ける90分のドキュメンタリーが完成した。

 ウガンダと日本の東北地方の子供たちにブロードウェイの舞台に立たないかと提案したのが「あしなが育英会」の創設者・玉井義臣氏。共鳴した篠田監督はこれがデビュー作となった。監督はTBSテレビ出身の元テレビマンだが、撮影、編集に至るまで長い年月と現地への往復の日々が続いた。完成後はこの子供たちからのメッセージを広く伝えるべく、国内劇場での上映、世界のテレビへの配信の実現を目指し、そのための資金を得るためクラウドファンディング(5月末まで)を駆使するなどして、東奔西走の毎日を過ごしている。

 もう一人、構想実現の核となったのが英国の舞台演出家ジョン・ケアード氏。ミュージカル「レ・ミゼラブル」などで、舞台のアカデミー賞とよばれるトニー賞を2度受賞した巨匠だ。これに超一流のスタッフが集結し、子供たちをサポートした。このサポートという立ち位置に大きな意味がある。

 ケアード氏はウガンダの子供たちにこう言った。舞台で歌う歌詞は「君たちに書いてもらいたい」。親を亡くしたこと、孤児でいること、アフリカで暮らすこと、その意味を自分の言葉で表現してほしいとした。そのスタンスは東北の子供たちに接するときにも貫かれた。プロが舞台を組み立ててしまえば話は早い。が、子供たちの内からにじみ出てくるものをじっと待ち、舞台をつむいでいった。洗練されたものでないからこそ、そこに現実があり、切実さが伝わり、見る者、聞く者の感性に触れるのである。

 タイトルの「シンプル・ギフト」は、映画の中で使用されるドキュメントの柱になる曲だが、その中に「自分のいるべき場所を見つけること、それこそが人生の真なる喜び」というくだりがある。「自分のいるべき居場所」を見つけるのは、意外と難しい。ウガンダの子供たちも東北の子供たちも自分の居場所が分からずにいた。ある子どもは当初「ダンスなんてしたって何の意味がある?」と斜に構えていた。が、やらされていたダンスレッスンを重ねていくうちに自分と向き合い、出した結論は「でもやることに意味がある」。

 「自分探し」という言葉が巷にあふれて久しい。本当の自分と向き合うためには現状から一歩を踏み出す覚悟がいることを子供たちは行動をもって映画の中で伝えた。人が覚悟を決めて一歩踏み出した時の力強さと美しさ。子供たちの瞳の輝きの変化がそれを物語っていた。久しぶりに魂が揺さぶられたドキュメントだった。

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