伊礼彼方、音楽に救われた過去告白 人種差別テーマのミュージカル出演

[ 2017年12月1日 07:00 ]

舞台「メンフィス」出演者インタビュー

舞台「メンフィス」に出演する俳優の伊礼彼方
Photo By 提供写真

 俳優の伊礼彼方(35)がミュージカル「メンフィス」(12月2〜17日、東京・新国立劇場中劇場)に出演する。ソウルフルな音楽やダンスが称賛を浴び、2010年にトニー賞を受賞した作品で、日本公演は2015年の初演以来2年ぶりの再演。俳優の山本耕史(41)が主演と演出を担当する。伊礼が演じるのは、主人公ヒューイが自分を売り込みに行ったラジオ局の掃除夫。開幕を前にインタビューに応じ、作品の魅力について語った。

 舞台は人種差別が色濃く残る1950年代の米テネシー州メンフィス。実在した白人DJ、デューイ・フィリップスの半生をモデルにしたミュージカルで、差別や偏見など様々な問題を乗り越え愛を貫こうとする白人DJと黒人歌姫を描く。山本が主人公ヒューイ・カルフーン、女優の濱田めぐみ(45)がヒロインのフェリシア・ファレルを演じる。

――初出演の伊礼さんが捉える作品の印象について教えてください。

 「テーマは重いのですが、それを柔らかいものにする音楽や踊りが魅力的なエンターテインメント作品です。音楽やダンスは差別がなくなる要素の一つですよね。戦争のときも音楽が人の心を救ってくれました。言葉が通じなくても音楽を通して人と人は寄り添い合うことができます。そういうメッセージが含まれている作品だなと思います」

――伊礼さんが演じるラジオ局で働く掃除夫ボビーは、どういう人物だと思いますか?

 「1950年代は人種差別問題が根強く残る時代ですが、白人のヒューイがブラック・ミュージックを掛ける大騒動を起こしたときに、ヒューイの行動を受け入れる人間の一人ですね。白人と黒人の架け橋となっている黒人だと捉えています。互いの間にある“クッション”のような存在ですね。“白人のヒューイは悪いヤツじゃないよ”とか“黒人も皆悪いヤツじゃないよ”というメッセージを伝える人。たまたま肌の色が違って生まれただけなんだということを理解している人物ですね」

――劇中の音楽が魅力の舞台です。伊礼さんにとっての“音楽とは”何でしょうか?

 「僕自身、中学のときに音楽の力に救われたことがありました。ブルーハーツさんの『青空』という曲です。母がチリ人で、父が日本人というハーフなので、日本人顔でもないし、完全な外国人顔でもなく中途半端な立ち位置で“自分は何者なんだろう?”と幼少期から悩んでいました。見た目のコンプレックスを抱えていたのですが、『青空』を聞いたときに“生まれたところや皮膚や目の色で、いったい何が分かるんだ”という歌詞があって、聞いたときに悩みが吹っ飛びました。“俺は小さいことを気にしていたんだなあ”と感じ、自分自身のことを正直に受け入れることができたのです。音楽って素晴らしいなと心から思いました。悩んだ時に映画や本に救われた人がたくさんいると思いますが、僕は音楽に助けられました。音楽に対する思いが強かったことが、この業界を目指したきっかけになったと思います」

――ミュージカル作品への思いを教えてください。

 「芝居の現場とミュージカルの現場だと、ミュージカルのほうがキャスト同士の距離感が近づくスピードが3倍くらい早いんです。顔合わせのときから歌のハーモニーを合わせる作業がありますし、長期間の稽古中にお互いが歌や踊りを合わせないといけない。芝居の場合は、セリフの読み合わせや稽古がありますが、僕の感覚では親しくなるのは本番始まってからが多いですね。やはり音楽が介在するかしないかで異なりますね。ミュージカルをやる役者さんはフレンドリーな人が多いですね。芝居の役者さんが悪いということではなくて(笑)、距離感が縮まるスピードがミュージカルの方が早いなということです」

――現場の雰囲気の良さが舞台上に溢れているのですね。座長である山本耕史さんの印象を教えてください。

 「過去に『嵐が丘』(2015年5月)という舞台で共演させてもらったのですが、その時から全体を見る、俯瞰して物事をみることができる人だなと思いました。今回も座長として全体をバランスよく見ているなあと感じますね。今作では主人公だけでなく演出もやっているので凄く忙しいのですが、稽古場では、何かが足りないと思ったら的確に指摘、アドバイスをしてくれます。頼もしいリーダーであり、僕にとってはアニキ的存在ですね。役や仕事の悩みを相談しています」

――舞台を楽しみにしている方やファンにメッセージをお願いします。

 「初演を見てくださった方は、再演を楽しみにしてくださっていたと思いますし、今回初めて見る方の期待も裏切らない作品です。演出が前回とガラリと変わりました。新しいチャレンジをする山本座長の姿勢が、僕は好きです。人種差別という大きなテーマを扱っていますが、見てくださる方々それぞれの世界観で何かを感じ取ってもらえたら嬉しいですね。人は皆コンプレックスや悩みを抱えていると思いますが“あまり気にしないで生きていこうよ”“自信を持って生きていこうよ!”ということですね。偉そうに言いましたが、僕自身、教訓にしないといけない言葉だと思っています(笑)」

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