芸能人や政治家も御用達!新ビジネス「水洗い洗濯代行」の裏側に迫る

[ 2016年5月9日 08:30 ]

 機械がやってくれるとはいっても、洗濯は面倒なもの。ついついためてしまうが、汗をかくこれからの季節は、そうも言ってはいられない。Tシャツ、下着、靴下…そんな汚れ物の洗濯を代行してくれる人がいる。「クリーニング店」とは異なる新種の洗濯業者。生みの親は、自由な発想をする女性だった。

 交通量が多い幹線道路から少し中に入った東京・代々木の住宅街。カフェと見間違うほど、明るくスタイリッシュなコインランドリーの奥で、洗濯代行人・山崎美香(47)が作業を進めていた。ドラム式洗濯機2台、乾燥機2台がフル稼働。棚には洗濯を待つ専用バッグが10袋ほど並ぶ。乾燥を終えたTシャツ類を畳みながら「今日もきれいに仕上がった」とほほ笑んだ。

 水で洗うと縮むニット類をドライ洗浄してくれるクリーニング店とは大きく異なり、請け負うのは水洗いできる衣類。洗濯は機械に任せるが「畳み作業には最も神経を使います」と話す。30分ほどかけ手作業で一枚一枚、丁寧に積み上げる。同一サイズに畳まれた洗濯物は、透明な袋に詰めて、専用バッグに戻す。利用者からは「便利」「家で洗濯するより断然きれい」と好評だ。

 東京・原宿でカフェを経営しながら、何か新しい形態のケータリング事業を手掛けようと思い、米国へ視察に訪れた。滞在を1週間延長したため着替えがなくなり、洗濯するため訪れたコインランドリーで奇妙な光景を目にした。大きな袋の重さを量り、それを持ち込んだ人からお金を受け取る人がいた。その人は袋の中身を洗濯機に入れ、順次、乾燥機に移していた。

 その光景が忘れられず、再びそのコインランドリーを訪れた。何をしているのかを尋ねると、「ウォッシュ&フォールド(洗って畳むサービス)だよ」という答えが返ってきた。

 インターネットで調べてみると、日本ではまだこの種の事業を行っている業者はなかった。これだ!と思い、帰国後、カフェのスタッフに「コインランドリーをやるから」と告げた。

 2005年3月、代々木に日本初となる水洗い専用洗濯店をオープン。当初は1日1袋程度で、半年ほどは利用者数が伸びなかった。心が折れそうになったが「サービスを利用してもらえば、良さは分かってもらえる」と踏ん張った。次第に口コミで評判が広がり、10カ月後には月の売り上げが140万円まで拡大。現在はフランチャイズ店を含め全国13店舗、年内には3店舗がオープンする予定だ。

 時代の半歩先を行く確かな“嗅覚”。「会社員になった経験がないからしがらみがないので、自由にやれたことが良かったのかもしれないですね」と話した。

 山崎が経営する「ウォッシュ&フォールド」の利用者は、専用ランドリーバッグに洗濯物を入れて集荷を依頼すればOK。2日後には、きちんと畳まれて自宅に配達される。バッグにはジーンズ、下着、靴下、パジャマ、シーツなどの日常使う衣類を入れ放題。「これまで苦情が来たことはない」と自信を見せる。会員は2万1200人(3月末)で、男女半々、30代後半~40代の働き盛りが中心。中には芸能人や政治家もいるという。

 とはいえ、洗濯代行の需要はそんなにあるのだろうか。花粉症で春には外に干せない、下着が盗まれそう、タワーマンションで外に干せない規定がある、小さな子供がいて一日に何度も洗濯機を回すのは苦痛…など「現在の洗濯環境は案外シビアなんですよ」という。子供の野球、サッカーの試合で着たユニホームを、チームで持ち込むケースもあるという。

 超高齢化社会に向かう日本。高齢者が洗濯代行を利用するケースも増えるだろう。時代を先取りする山崎のような存在は心強い。 =敬称略=

 ▼料金 6~8キロが入る「レギュラーサイズ」は1袋で3000円、3~5キロの「スモールサイズ」は2200円(ともに税込み)。袋パンパンに入れても、靴下1枚だけでも料金は同じ。

 ≪増加傾向のコインランドリー≫厚生労働省の調査によると、日本のコインランドリーの店舗数は1996年度が1万228店だったのに対し、13年度(最新)は1万6693店。年間5%前後で増加傾向にある。最近は女性専用や、防犯カメラを完備した店舗もあるといい「汚い」「暗い」というイメージは一昔前のことのようだ。

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2016年5月9日のニュース