自戒をもって振り返る被災地取材 忘れてはいけない“報道被害”

[ 2016年5月9日 08:00 ]

 ガソリン給油割り込みにトイレ盗撮、弁当ツイート…。熊本地震の被災地報道を巡り、マスコミ批判がネット上にあふれた。報道不信は深刻だ。“前震”翌日の4月15日から5日間現地で取材した。同業者への批判と、自戒をもって振り返りたい。

 まずは被災地における、報道陣の食事問題。カロリーメイトやチョコバーなどの携行食3日分を用意して被災地入りした。だが取材が予定より延びたこともあり、現地のコンビニで買い足した。

 ツイッターに上がったような弁当や、おにぎりが食べたかった。だが米を口にしたのは、被災地から遠く離れたホテルに宿泊した夜と、取材最終日の朝の2食だけだった。あとはスナック菓子や缶詰、とろけるチーズなど。店の前の駐車場で買ったばかりのアイスクリームの封を切り、昼食とした日もある。水や茶はなく、オロナミンCなど栄養ドリンクばかり飲んだ。

 何を口にしても「被災した方が食べるべきだったのではないか」と後ろめたさがあった。突き詰めれば、人間1人存在するだけで被災地に迷惑を掛ける。食料、ガソリン、ホテル、駐車場など、どれも自分が使わなければ、被災地の誰かが使えるものなのだから。

 割り込みが問題となったガソリン給油は、深夜に済ませた。被害が比較的小さかった八代市に宿泊した際、「この辺りも昼は長い列ができたが、夜は空いている」と聞いたからだ。ただ、後任で現地入りし、博多空港で車を引き継いだ同僚には、ガソリンをほぼ使い切った状態で渡してしまった。彼は九州自動車道のサービスエリアで、長い列に並ぶハメになった。大変申し訳ないことをしたが、報道のために、給油待ちの列に割り込む特権などないので仕方ない。

 報道陣の一連の問題行為はSNSで広まった。それをネットメディアが拾い、ヤフーニュースも大々的に取り上げ、多くの人が知る問題となった。

 それだけに報道しないテレビ局は異様にみえた。ネット上では「マスコミなんていらない」「SNSで現状は分かる」との声まで出た。反論はあるが、メディアが事実を伝えないのだから信用を失って当然だ。

 今回と同じような“報道被害”は、死者29人が出た1984年の長野県西部地震の際には問題になっていたという。人口1000人強の長野県王滝村に報道陣500人が駆けつけ、村役場の震災対応に支障が出たそうだ。阪神・淡路、東日本の大震災も似たような話があったと聞く。

 今回、猛烈な批判が起きているのは、SNSの普及で表面化しただけなのかもしれない。

 「被災地報道は1社に任せ、他社は素材提供を受ければいい」との声もあった。賛成はできないが、被災地住民の生活や、復旧業務を妨害するほどの数の報道陣がいるのは問題だ。

 今回の地震で、何人の報道陣が現地入りしたのだろう。例えばテレビは、同じ系列局で幾つも取材クルーを出していた。番組単位のクルーも見た。あるテレビ関係者は「独自映像は大切。多すぎるとは思うが、ウチだけ出さないわけにはいかない」と話した。人の生き死にのそばにある災害報道に、普段と同じ仕事力学が働いている。もちろん報道も仕事だが、それが被災者の命や生活の上に来ていいはずがない。

 次の災害が起きた時…などと考えたくはないが、その時マスコミ報道が信頼されている保証はない。我々は地震が起こした被害とともに、報道被害も忘れてはいけない。

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2016年5月9日のニュース