【内田雅也の追球・こどもの日特別版】阪神が伝える心 大切なのは失敗の後 大きい団体の力

[ 2021年5月5日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神11ー5ヤクルト ( 2021年5月4日    神宮 )

<ヤ・神(6)> 勝利のエアタッチをかわす阪神ナイン(撮影・大森 寛明)
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 こどもの日にあわせ、小中学生に向けて書きます。野球をしていない子にも通じる話です。もちろんほご者やしどう者の方にも読んでもらえればうれしく思います。

 野球は失敗のスポーツといわれます。試合ではだれでもいろんな失敗をします。投げたり打ったり守ったり走ったり……なかなかうまくいかないことばかりです。

 でも、それでいいのです。失敗をしない人間なんていません。失敗をしながら成長(せいちょう)していくのです。ですから野球は人間らしいスポーツともいわれる。失敗をおそれていてはいいプレーはできません。

 大切なのは失敗した後です。阪神とヤクルトの試合では両チームで4個のエラーがありました。

 3回に失点につながるエラーをしたヤクルトの西浦(にしうら)選手は5回にホームランを打ちました。同じように、5回にエラーで失点した阪神の大山選手は9回にタイムリー三塁打を打っています。失敗にくじけず、自分で取り返したのです。すごいことです。

 阪神の矢野(やの)監督は失敗した選手をせめたり、しかったりしたことはありません。いっしょうけんめいやったのですから、しかたがありません。次の成功(せいこう)につながればいいとみています。

 キャプテンの大山選手は今シーズン開幕(かいまく)の3月26日、球場に向かう前のホテルでみんなに言いました。「いい時は勢(いきお)いそのままに、悪い時は全員で助け合ってやっていくことでマイナスもプラスに変わると信じています」

 この「助け合い」は団体スポーツが持つ美しい心です。美点(びてん)といいます。

 だれかが調子が悪くても、他のだれかががんばって、チームとして勝利を目指すのです。助け合うと、マイナスだった失敗もプラスの効果を生むことになるのです。

 助け合いは何もレギュラー選手だけではありません。阪神は試合途中(とちゅう)から出たひかえ選手たちががんばりました。

 2―4の6回、代打で出た陽川(ようかわ)選手は2人のランナーをかえす同点二塁打を放ちました。初球(しょきゅう)をひと振りでしとめたのですが、これはとてもむずかしいことです。ベンチ裏で、バットのすぶりなど体はもちろん、相手がどんな球を投げてくるのかを考え、頭の準備もしていたのでしょう。

 エースの西投手が5回でおりた後をうけたリリーフ投手たちもふんばりました。最終回に出た熊谷(くまがい)選手は大飛球をフェンスにぶつかりながら捕って、ボールをはなしませんでした。
 ふだん試合に出ることが少ないひかえ選手たちは、出たときに必死になっていたのです。

 むかし、阪神が弱かったころ、あるOBが「イワシはいくら育ててもブリやハマチにならん」と言って、入団してくる新人選手たちに素質(そしつ)がないと決めつけていました。山際淳司(やまぎわ・じゅんじ)さんという有名なライターが書いた本にのっていました。イワシは漢字で「鰯」、魚へんに弱いと書きます。

 同じころ、近鉄(きんてつ)の西本幸雄(にしもと・ゆきお)監督は「イワシも大群(たいぐん)になると力が出る。みんなが力を合わせるとなんでもできるんだ」と話していました。ことばどおり、団体(だんたい)の力で、優勝をはたしていました。

 「助け合い」で阪神は団体の力を出し、いまセ・リーグの首位(しゅい=1位のこと)にいます。大山キャプテンは「いい顔でいきましょう」とも話していました。「タイガースの試合を見て元気になれた、笑顔になれた、そういう人が増えてもらいたい」というのが理由(りゆう)だそうです。

 これは矢野監督の考えでもあります。勝負にはもちろん勝ちたいし、勝つためにやっています。目標(もくひょう)は優勝(ゆうしょう)、そして日本一とはっきり言っています。

 でも「優勝よりももっと大きなことがある」と話します。それが大山キャプテンも話したように「だれかを元気にする、笑顔にする」ということです。失敗にくじけず、みんなで力をあわせてがんばる。そんなすがたが広まれば、しあわせにつながっていくのかもしれません。勝つことよりも大切なことがあるのです。(へんしゅう委員)

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