【内田雅也の追球】満月の夜、阪神・西が高めた集中力 回の先頭、連続7人切り 巨人戦負けなし3勝目

[ 2020年10月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-1巨人 ( 2020年10月2日    甲子園 )

<神・巨(17)> 綺麗な満月とたなびくチーム旗 (撮影・平嶋 理子)                                                         
Photo By スポニチ

 満月の夜だった。前夜は中秋の名月だったが、満月ではなかった。十五夜と満月は必ずしも一致しない。

 満月の日は出産が多い、大事件が起きる、恋の告白の成功率が高い……など、古今東西で不思議が伝わる。<満月の日は人の心を波立たせ、いつもの日と少し違った一日になる>と、日本満月協会・日本記念日協会の代表、加瀬清志が著書『プロ野球満月伝説』(東京書籍)の序章で書いていた。同書はプロ野球と満月の相関関係を調べあげている。

 <満月ナンバーワンピッチャーは江夏豊>として多くの事例をあげている。阪神入り2年目の1968(昭和43)年8月8日の中日戦(中日球場=現ナゴヤ球場)で、セ・リーグ記録に並ぶ16奪三振で完投勝利をあげたのが、江夏満月伝説の始まりという。広島時代の1979年(昭54)日本シリーズ最終第7戦、「江夏の21球」で有名な投球も満月の日だった。

 阪神・西勇輝も満月に強いのではないか。今季初勝利は7月5日広島戦(マツダ)だった。それ以来の満月登板で8回1失点と好投、巨人戦3勝目(無敗)をあげた。

 光ったのは回の先頭打者を切った点である。8回先頭ウィーラーに本塁打を浴びるまで、7回連続で打ち取った。

 その先頭7人に要した球数はわずか25球、1人平均3・5球と少ない。2回の丸佳浩は初球スライダーで右飛、7回の岡本和真は2球目シュートで遊ゴロに仕留めた。制球のいい自分を知り、早いカウントで打ちにくる相手に、初球から勝負していたわけだ。

 先頭打者ではないが、敗れた巨人監督・原辰徳がポイントにあげた1回1死一、二塁での岡本三ゴロ併殺。打ち気で来る相手4番に、初球チェンジアップで抜いて引っかけさせたのだった。

 「ゲット、ナンバーワン」は「回の1番目を取れ」の意味で、戦前からある投手への訓示だ。39年夏の甲子園大会で全5試合完封、準決勝、決勝ノーヒットノーランを達成した海草中(現向陽高)の嶋清一(野球殿堂入り)は45回を投げ、先頭出塁を許したのは3回だけだった。監督の杉浦清(後に中日監督)が「ゲット、ナンバーワン」と口酸っぱく指導した。

 不思議な月の力について、著述家・松岡正剛が語っている。荒俣宏との対談をまとめた『月と幻想科学』(立東舎文庫)にあった。

 「日本語で“ツキ”と言うでしょう。今日はツイているとか、ツイていないと言う。このツキはもちろん“月”で、ツクというのは“精神集中する”ことを指す」

 西はより集中力を高めていたのかもしれない。ゲーム差など忘れさせる打倒巨人の快勝劇だった。甲子園上空では、まさに煌々(こうこう)と満月が輝いていた。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2020年10月3日のニュース