日本選手初サイ・ヤング賞へ ダルの進化 右腕公認「プロウト評論家」お股ニキ氏がデータで分析

[ 2020年9月17日 02:30 ]

カブスのダルビッシュ(AP)
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 レギュラーシーズンが佳境を迎えた大リーグでカブスのダルビッシュ有投手(34)がサイ・ヤング賞の有力候補に挙がる。15日(日本時間16日)のインディアンス戦も8勝目こそ逃したが7回3失点。受賞となれば日本選手初の快挙だ。今季進化した部分は何なのか。ダルビッシュ公認の「プロウト(プロの素人)評論家」で、右腕に直接アドバイスを送ることもあるお股ニキ氏が徹底分析した。(取材・構成 大林 幹雄)

 お股ニキ氏が最初に挙げるのは「ピッチセレクション(球種選び)」の的確性だ。割合を比較すると、フォーシームはわずか13・6%。3種類あるカットボールが45・1%を占め、メジャー移籍後初めて、直球(フォーシーム+ツーシーム)より上回っている。

 「一般的な見方からすれば“逃げの投球”とも見られかねない。しかし、フォーシームはカーブとともに最も打たれやすい球種。単純ですが、打たれやすいボールの割合を減らし、打たれにくいボールを増やしていくのは有効です」

 昨季の被本塁打33(31登板)はリーグワーストだったが、今季は10登板で4被弾と激減した。同氏によれば、ダルビッシュのフォーシームの被打率は昨季・275で全球種中ワースト。カットボールはリリースポイントと軌道が直球に近く、打者を幻惑しやすい。

 今季の軸である3種のカットボール。85マイル(約137キロ)程度で縦スライダーに近い「スラッター(スラット)」、87~89マイル(約140~143キロ)と少し強度が上がるカットボール、91~93マイル(約146~150キロ)の「ハードカッター」に分かれる。

 「横スライダーやナックルカーブ、スローカーブと含めると、スライド系の変化だけでも、5段階にも6段階にも及ぶ。打者からすれば的を絞れない」

 スラッターはメジャー全体でも近年、流行している球種。フォーシームに近い軌道で「カクッ」と鋭角に落ちる。スライダーやフォークよりも変化が小さく、空振りも取れるが、見逃せばストライクに。同氏は「万能変化球」と評し、他の球種との「組み合わせ=相乗効果」で、さらに威力を増す。

 「お股ニキ理論」で強く推奨するのは2パターン。逆の軌道であるシュート気味に落ちるスプリットやチェンジアップとの組み合わせは「スラット・スプリット型」、同じスライド系でも軌道や球速が大きく異なるカーブとの組み合わせは「スラット・カーブ型」と呼ぶ。ダルビッシュは両方可能で、さらにツーシームと合わせた「スラット・シュート型」も実践している。

 ただ、減らしても、配球の中で欠かせないのがフォーシーム。ダルビッシュは改善を重ねて「質が上がっている」(同氏)という。大リーグ公式サイトによれば、リリース位置などの修正により回転効率が向上。浮き上がる軌道を描き、空振り率が先発投手トップの42・0%に向上した。

 投手3部門で上位をキープ。メジャー移籍前に「世界中の誰もが“No・1はダルビッシュだ”と言ってもらえるようになりたい」と掲げた夢が、現実へとなりつつある。

 ○…リーグトップタイ7勝のダルビッシュはメッツのデグロム、レッズのバウアーらとサイ・ヤング賞を争う。
 中でも、お股ニキ氏が「2人の一騎討ちになるのでは」と読む最大のライバルは18年に10勝、19年に11勝ながら2年連続で受賞したデグロムだ。今季は4勝止まりも防御率1・67はリーグトップで、79奪三振、1イニング当たりに出した走者数を表すWHIPはいずれも2位。また9日の対戦でダルビッシュに投げ勝ったバウアーのWHIP0・81、83奪三振はともにリーグトップで侮れない存在だ。

 ▼お股ニキ氏とダルビッシュの親交 15年にダルビッシュ(当時レンジャーズ)に関して何げなくつづったツイートが偶然、本人の目に留まったのをきっかけに親交がスタート。ツーシームを助言した際には「お股ツーシーム」として公認されるなど「プロウト」としての道が開けた。現在はソフトバンク・千賀をはじめ、球界で理論を取り入れる選手が急増中。今年から4人のグループで開設したオンラインサロン(会員制ウェブサービス)には約30人のプロ選手が加入している。

 ◆お股ニキ(@omatacom=おまたにき)本名、生年月日、出身地は非公表。「ニキ」はネット用語で「兄貴」の意味。本格的な野球経験は中学の部活動まで。今年5月には「データ全分析 ダルビッシュ最強投手論」(宝島社)を出版した。

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