引退表明の楽天・渡辺直人の魅力 誰もが認める「人柄」と「人間力」 決断のタイミングは…

[ 2020年9月12日 13:40 ]

人柄でも多くの人を魅了する楽天・渡辺直
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 今季限りで現役引退を表明した渡辺直人内野手兼1軍打撃コーチ(40)を語る上で忘れてはいけないのが、球界屈指とも称される「人柄」であり「人間力」だ。

 人望の厚さを証明した出来事がある。10年オフに横浜(現DeNA)への金銭トレードが決まった直後、楽天のチームメートたちが契約更改会見の場で次々と涙を流して別れを惜しんだ。鉄平(現1軍打撃コーチ)は「一番尊敬する先輩。悔しい…」と泣きじゃくり、嶋基宏(現ヤクルト)も「直人さんの気持ちと魂を引き継いでいく」と涙をぬぐった。

 スポーツニュースでも大きく報じられ、覚えている野球ファンも多いかもしれない。いつの時代も突然の仲間の移籍は驚きとともに受け止められるが、近年でここまで多くの同僚が涙を流したトレードは記憶にない。

 楽天に限った話ではない。移籍先の横浜・DeNAや西武でも、多くの選手から慕われた。18年から楽天に復帰すると、古巣との試合ではかつてのチームメートたちがわれ先にと渡辺直のもとに駆けつける。あいさつの列が、いつの間にか輪になるのがお決まりだ。今年は新型コロナウイルスの影響でその光景は見られないが、多くの選手が離れた場所から真っ先に帽子を取って頭を下げている。

 後輩の面倒見が良く、助言を惜しまない。優しいだけでなく、必要であれば厳しく叱ることもある。相手が年上であったとしても、臆さずに自分の意見をしっかり伝える。まさに「言うは易く行うは難し」。ぶれずに貫ける男は、どの世界でもそうはいない。

 だからこそ、今季から球団では初となる兼任コーチの役目を託された。球団から打診された際には即答で快諾した。不安もあったはずだが「一度しかない人生。やれることは全部やっておきたい。教えるの嫌いじゃないし。むしろ好きだから」と笑う姿は、いかにも渡辺直人らしかった。恐らく、この時点で自らの幕引きのことは考えていたはずだ。

 同じ1980年生まれの「松坂世代」がユニホームを脱ぐ度に「やっぱり寂しいよね」とこぼした。自身の引退については「まだ若手と勝負してやろうという気持ちがあるうちは辞めないよ。もう勝負できないと思ったら、引退するって公表するつもり。そういう世界だから」と話していた。2020年9月が、決断のタイミングだったのだろう。 (重光 晋太郎)

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