【内田雅也の追球】「仕方ない」ことはない 7点差守れず引き分けの阪神 不屈の相手に学ぶ

[ 2020年9月9日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7-7DeNA ( 2020年9月8日    横浜 )

<D・神(13)> 7回1死一塁、宮崎の打球を好捕した糸原は二塁に送球する(撮影・大森 寛明)
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 交互に攻守が入れ替わる野球は対戦する相手にも刺激を受けるスポーツと言われる。相手の姿を目の当たりにして奮起するわけだ。

 痛い引き分けとなったこの夜、阪神はDeNAに相当に刺激を受けたはずだ。6回表で7―0と大量リードしていたが、その裏、一挙7点を失って同点にされた。先発オネルキ・ガルシアの連続四球や3ラン被弾など突然の乱調はあった。手痛い捕逸の失点もあった。むろん反省はした上で、さらに不屈の姿勢を見習いたい。

 特に4点差の無死一、二塁。戸柱恭孝が追い込まれながら低め難球に食らいつき、一ゴロ進塁打した打撃姿勢である。

 結局、本塁打3発でしか得点できず、送りバント失敗もあった打線である。つながりで奪う、全員野球が望まれる。

 ゲーム差は開いてはいるが、首位巨人への挑戦権を懸けた2位攻防の試合である。相手も必死なのだ。まだ50試合以上残るシーズン、あきらめるわけにはいかない。

 公開中の映画『アルプススタンドのはしの方』(監督・城定秀夫)を観た。原作は兵庫県立東播磨高校が3年前、全国高校演劇大会で最優秀賞を受けた作品だという。

 甲子園出場を果たした普通の公立校。応援席の端っこで冷めた姿勢の、さえない4人の男女生徒がいる。「しょうがない」と繰り返し、勝負をあきらめている演劇部の2人、万年控えの同級生をばかにする元野球部員、エースにひそかな思いを寄せる友だちのいない帰宅部。だが、強豪校に立ち向かう試合展開に、思いは交錯していき、次第に応援に熱を帯びるようになる。「しょうがない」とは口にしなくなる。

 阪急、近鉄を創設初優勝に導き「闘将」と呼ばれた西本幸雄を思った。中国戦線で終戦を迎え、復員後は「根なし草」の生活だったと聞いた。中国で覚えた「没法子」(メイファーズ)を口にしていたそうだ。「仕方ない」という意味で、あきらめの意味合いが強い。

 そんな西本も別府・星野組での社会人野球で「青春」を見つけ「はしの方」から「真ん中」に出ていくことになる。仕方がないことなどなかったのだ。「努力すれば、いつか報われる」と、そして「個人が力を合わせる団体の力は大きい」と、身をもって知ることになる。

 大差だろうが、連戦だろうが、やりようはあるのだ。

 阪神にも光るプレーはあった。近本光司は猛攻を受けた6回裏、勝ち越し走者を本塁で刺す好返球を投じた。前夜の巨人戦では浅い中飛で2度も返球ミスをして、監督・矢野燿大から「近本で負けた」と指摘されていた。辛い夜を越えて、やり返した姿に不屈をみた。7回裏、糸原健斗の美技で奪った併殺にも執念をみた。

 もう一度書いておきたい。仕方がないことはない。あきらめてはいけない。   =敬称略=
     (編集委員)

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2020年9月9日のニュース