“21世紀枠”帯広農 なつぞらの大金星!聖地で結実“すず野球”体格ハンデを一丸で埋めた

[ 2020年8月17日 05:30 ]

2020年甲子園高校野球交流試合   帯広農4―1高崎健康福祉大高崎 ( 2020年8月16日    甲子園 )

<高校野球交流試合 健大高崎・帯広農>試合に勝利し校歌斉唱する帯広農ナイン(撮影・河野 光希)
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 センバツに21世紀枠で選出されていた帯広農(北海道)が、昨秋の明治神宮大会準優勝の高崎健康福祉大高崎(群馬)を破った。井村塁(3年)、水上流暢(はるのぶ、3年)の両投手が1失点リレー。特別な夏の「甲子園初勝利」は、学校創立100周年に花を添える大金星となった。部員のほとんどは農業後継者か公務員など就職志望で、卒業後に野球を続けるのは一握り。夏空の下、「笑顔」を合言葉に最高の思い出をつくった。 試合結果

 ユニホームは小麦色。十勝地方の代表的作物を取り入れたそれは今年、100周年で色が濃くなった。9回2死から二塁打を許し、タイムを取って内野陣が集まる。小麦の束がマウンドにできた。

 「笑顔であと1個、アウトを取ろう」

 みんなで深く息を吸い、太陽を浴びる。おそろいで帽子のつばに書いた「笑顔」の文字を確かめた。輪の中心は、7回から好救援してきた水上だ。小麦などを作る農家の8人兄弟の三男は、家業を継ぐために帯広農で学ぶ。表情を和らげ、最後は97キロのカーブで空振り三振させた。「ずっと甲子園で勝ちたいと目標にしてきた。みんなも最高の笑顔で良かったです」。沸き上がるナイン。小麦の穂が大きく揺れた。

 6回1失点と試合をつくったのはエース兼主将の井村。「甲子園は恩返しできる場所。保護者や先生方に勝利をプレゼントできて良かった」と話す右腕を、前田康晴監督は「(7月上旬に)右脇腹を故障し、気持ちでここに合わせてきた。凄い主将」と褒めた。

 高崎健康福祉大高崎とは新チーム発足直後に練習試合をして、Bチームに6―11で負けた。鍛え直し、昨秋の北海道大会ベスト4。1月24日にセンバツ初出場が決まった。昨年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」で描かれた「十勝農業」のモデル校として、井村は主演女優の広瀬すずを意識して「“すず野球”で頑張る」と宣言。コロナ禍はまだ、想像すらできなかった。

 夏の甲子園中止が決まると「引退」を言いだす選手が出た。公務員試験を受ける井村も「気持ちに穴があいた」という。再び一つになれたのは、下宿での夕食中に「もっとみんなと野球がしたい」と本音を語った水上らの思いがあったからだ。

 「すず野球」の「す」に込めた意味の一つは「スマイル」。夏空に咲く笑顔は満点だった。「ず」に込めた一つは「頭脳的に」。130キロ台中盤の直球に、いずれも最遅で90キロ台前半のカーブを交えた2人の投球は、出場32校で最も低い平均身長(1メートル69)、最も軽い平均体重(66・8キロ)のハンデを埋めた。会心の勝利後、水上は「進路ははっきりとは決めていない」と打ち明けた。家業を継ぐのを先送りしてでも、真剣にやる野球を続けたい。甲子園はそう考えるほど、最高の場所だった。(和田 裕司)

 ≪21世紀枠の勝利 釜石16年が最後≫過去のセンバツで21世紀枠として出場したチームで、白星を挙げたのは16年の釜石(岩手)が最後。この時は相手が同じ21世紀枠の小豆島(香川)だった。同枠対決以外で白星を挙げたのは15年の松山東(愛媛)が最後で相手は二松学舎大付(東京)。北海道勢では13年に遠軽がいわき海星(福島=21世紀枠)に、02年に鵡川が三木(兵庫)に勝利している。

 ▽帯広農 1920年(大9)創立。十勝農業学校を前身とする公立校で、57年に現校名となる。畑や森林を含めた敷地面積は約110ヘクタールで、標茶(北海道)に次いで全国2番目の広さ。野球部は26年に創部され82年夏に甲子園初出場も初戦敗退。主な卒業生に中川一郎(元農林水産相)、桑井亜乃(16年リオデジャネイロ五輪女子7人制ラグビー日本代表)ら。OBの漫画家・荒川弘氏が、同校をモデルに青春漫画「銀の匙(さじ)」を描いた。 

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