田沢純一、あの頃と同じ「求められる場所」探すだけ…渡米12年、無所属33歳の胸の内

[ 2020年4月29日 06:00 ]

3月はアリゾナでトレーニングを行っていた田沢
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 今年3月、レッズを自由契約となった田沢純一投手(33)は、再びメジャーのマウンドに立つ日を目標にトレーニングを続けている。新型コロナウイルスの感染拡大により、米国はメジャー、マイナーともに開幕の見通しが立っていない。試合がなければ、スカウトにアピールすることもできない。アマチュアから直接海を渡り、12年…。田沢は今、何を考えているのか。本紙の電話インタビューに応じた。(聞き手・甘利 陽一)

 4月上旬に日本に帰国し、約1カ月がたとうとしている。2週間の自宅待機期間を終え、田沢は神奈川県内のグラウンドで週4日、個人トレーナーとともに体を動かしている。

 「キャッチボールとか、体を慣らす程度です。今はSTAY HOME。外に出ていいのかなとも思いますが、野球選手はそれが仕事なので。練習から帰ってきた後は、家にいるだけですね」

 レッズを自由契約となったのは、3月7日。その後はキャンプ地だったアリゾナ州で練習を続けていたが、同13日に大リーグ機構(MLB)がキャンプの中断を発表し、球界の動きは全て止まってしまった。開幕の見通しはいまだ立っていない。

 「比較的にアリゾナ州は感染者が少なかったこともあり、誰もいない公園で練習していました。ちょうど外出禁止令が出る前日にロサンゼルスに移動し、それから帰国することになりました」

 渡米12年目の今季。レッズでは、オープン戦登板の機会が1試合(1回を無失点)しか与えられなかった。マイナー契約の選手がメジャー契約を勝ち取るのは難しいことは百も承知。加えて、猛威を振るうコロナ禍の影響も少なからずあった。

 「投手が足りなくなった時に投げるバックアップ要員のような立場で、バッティング投手も2、3回しかさせてもらえなかった。コロナの影響で試合がなくなるということもあったのか、同じような立場の投手が15人くらいいて、半分がいきなり呼ばれてクビになった。1試合も投げない投手もいました」

 ヤンキースの田中、レイズの筒香のように日本に帰国し、米球界の動向を見守る選手もいるが、田沢の場合、メジャーが仮に開幕したとしても働き場所はない。アピールの場となるマイナーリーグが開催される保証もない。先が見えない中でモチベーションを保つのは難しい。

 「難しいのは難しいけど、野球ができないのは僕だけではない。高校生も一緒。今はいつ球団から声が掛かってもいいようにやれることを準備するだけ。少しでも野球がうまくなりたいという気持ちでやっています」

 08年。ドラフト1位が確実視される中で、9月にメジャー挑戦を表明し、12月にレッドソックスと契約した。13年にはセットアッパーとして世界一に貢献し、メジャー通算388試合登板は、日本投手歴代3位を誇る。最高峰の景色も知る一方で、ここ数年は試練の日々が続く。昨季は初めてメジャー登板がなかった。6月には34歳となる。

 「人間やっぱりいいことよりも、悪い時期の方が長く感じるんじゃないですか?でも、それも自分が招いたことと、素直に受け止めています。今のメジャーは30歳を過ぎていい契約を取れないことも分かっている。でも、まだ野球をさせてもらっているので」

 現行ルールでは、田沢は帰国後、2年間はNPB球団でプレーできない。そのため現状では「NPB」という選択肢はない。

 「ルールに関しては、どうしようもない。ただ、誤解してほしくないのは、僕は日本が嫌でアメリカに行ったわけではない。どっちが上とか下ではなく、ただアメリカで野球がしたかっただけ。求められた場所で野球がやりたかっただけです」

 コロナ禍の影響で多くの球団が財政的なダメージを受け、来季はマイナーが160から120チームに削減されるとの報道もある。

 「冗談抜きで、これで引退する選手も出てくると思うし、野球界も世界的にいろいろ影響が出てくる。僕は声が掛かることを信じて、今できることをやっていくだけです」

 MLBは開幕した場合の特別措置として、連戦やダブルヘッダーに対応するために登録枠を26人から29人に拡大することも検討している。投手が補充される見込みで、メジャーで実績がある田沢に声が掛かる可能性はある。その日を信じて、トレーニングを続ける。

 《海外退団後、一定期間“凍結”》ドラフト指名を拒否して海外のプロ球団と契約した選手は、退団後、一定期間、NPB球団と契約することはできない。プレーするにはドラフト指名される必要があるが、高卒選手は3年間、大学・社会人出身は2年間、指名を凍結される。08年12月に田沢がレッドソックスと契約したことを受け、12球団の申し合わせ事項として承認された。ドラフト漏れした後に海外に移籍した選手は対象外となる。 

 《言葉が独り歩き…「田沢ルール」は“もうやめて”》
 【取材後記】18年8月、当時パナソニックの吉川峻平投手がダイヤモンドバックスとマイナー契約を結んだ時、再び「田沢ルール」という言葉が独り歩きした。12球団の申し合わせ事項として承認された規則だが、いつしか「田沢ルール」と呼ばれるようになった。このことを本人に聞くと、「気持ちいいものではないです。僕が決めたルールではないし、できれば違う呼び方にしてほしいです。もう10年以上もたっていますし…」と正直に語ってくれた。
 時代は変わりつつある。昨年5月、MLBドラフトで1巡目指名候補だったスチュワートがソフトバンクと契約を結び、日米球界を驚かせた。田沢は「MLBは罰則を設けていないし、日米で対応は違うなと思いました」と話す。12年前、「日本」と決別してメジャーに移籍したわけではない。「僕はただ求められる場所で野球がやりたかっただけ」との言葉が印象的だった。

 ◆田沢 純一(たざわ・じゅんいち)1986年(昭61)6月6日生まれ、神奈川県出身の33歳。横浜商大高から新日本石油ENEOS(現JX―ENEOS)を経て、08年にレッドソックスと契約。17年からはマーリンズ、エンゼルスなどでプレー。昨年8月にレッズとマイナー契約を結ぶも、今年3月に自由契約。メジャー通算388試合で21勝26敗4セーブ、防御率4.12。右投げ右打ち。

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