【内田雅也の追球】アフリカで触れた神髄

[ 2020年1月19日 08:00 ]

タンザニアで野球指導する藪恵壹氏(2019年12月)=藪恵壹氏提供=
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 藪恵壹(51)は自作スライドで「野球選手になる方法」と映し出した。18日、甲子園球場内であったトークイベント。大阪府の野球スクールに通う小学生男女57人に問いかけるように話す。

 1番目の項目があぶり出された。「勉強をがんばる!」とある。野球の話と思っていた子どもたちから「えーー!?」と声が漏れた。「大切なのは“読み、書き、そろばん”。言葉と算数の計算。言葉は力になるから。だから勉強は大切だよ」

 後に聞けば、伝えたかったのは「考える力」だという。「野球選手は基本的にすごく純粋ですよね。昔は理不尽なことでも何でもイエスと従っていました。でも、それじゃダメです。指導者の命令に従順なだけではいい選手になれません。自分で考えて動けるようにならないと、いい野球選手になれないんです」

 だから勉強というわけで「何もテストの点数や成績を問題にしているわけではありません」。

 テーマは「将来の自分へ~君たちはどうなりたいのか」。高校への越境入学や大学受験の浪人も経験したうえ、阪神へ逆指名入団、大リーグ入りも果たした藪らしい苦楽ないまぜの話だった。

 昨年12月4~10日、東アフリカのタンザニアで野球指導を行った。支援を続ける大阪北ロータリークラブに誘われ、初めて訪れた。同国最大の都市ダルエスサラームには同会が援助してできた「コウシエン」と名づけられた野球場がある。第7回を迎えた全国大会が開かれた。合間にネットスローの練習法や理想のフォームを伝えてきた。

 1996年のガーナからタンザニア、南スーダンなどで野球を伝える、NPO法人「アフリカ野球友の会」代表理事の友成晋也にも会った。黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンの息子で現地でコーヒー農園を営むデービッドもいた。

 藪は現地の学校の先生から「ケンカやもめ事が絶えませんでしたが、野球をする子は生活態度もよくなり、勉強の成績も良くなりました」と聞いた。「尊敬、規律、正義」が指導の3本柱だという。野球で学ぶわけだ。

 「野球は奥が深く、心技体すべてが試されます。その魅力は打つ、投げる、走る、捕る……に加え、勝つ、負けるがあります。負けることで得られるものも多いのです」

 負けて学ぶ。遠くアフリカで再認識した神髄を日本の子らに伝えたのだった。=敬称略=(編集委員)

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