【内田雅也の追球】半年ぶりの「初回バント」――柔軟・積極采配で逆転呼んだ阪神・矢野監督

[ 2019年10月6日 08:30 ]

セCSファーストS第1戦   阪神8―7DeNA ( 2019年10月5日    横浜 )

初回無死一塁、北條は投前犠打を決める(撮影・北條 貴史)
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 会見でこぼした涙が乾かぬまま、球場内通路をバスに歩む阪神監督・矢野燿大に「一つだけ」と聞いた。初回のバントのことだ。

 1回表先頭、近本光司が中前打で出ると、続く北條史也は初球を投前に送りバントした。1死二塁をつくった。

 今季、阪神が初回に犠打を記録するのは4月25日DeNA戦以来、約半年ぶりだ。レギュラーシーズン143試合で初回無死一塁(二塁や三塁は除く)での犠打は4月の2個だけ。その後は強攻策を貫いていた。ずばり「なぜ?」と聞いた。

 「こういう短期決戦は――」とまだ赤い目の矢野は足を止めて答えた。「やはり先に点が欲しい。ウチの投手陣もあり、相手も絶対に先に点をやりたくない。得点圏に走者を置くと、石田も警戒して球数が増えるでしょう。試合前からチカ(近本)が出たら……と決めていました」

 得点には至らなかったが、狙いは当たったと言える。相手先発・石田健大に1回表はジェフリー・マルテが四球を得るなど19球、2回表も先頭が出て31球。4回で78球を投げさせ、早期降板に追い込んだ。終盤の相手継投の乱れから大の付く逆転勝利につながったのだ。

 背景には、今季、初回無死一塁34度で32度強攻させ、凡打を含め一塁走者を進塁させられたのが14度(約41%)と芳しくなかった結果もあるだろう。併殺も6度あった。2番打者の打撃成績で言えば27打数5安打、打率1割8分5厘だった。

 それでも、強攻策は一つの気概でもあった。負ければ3位消滅の崖っぷちだった9月24日巨人戦(甲子園)では1回裏無死一塁で同じ北條に強攻させ、左前打で先取点を呼んでいた。

 あの夜、当欄で<「重さ」破った作戦>と書いた。大毎(現ロッテ)、阪急(現オリックス)、近鉄3球団で8度の優勝に導いた西本幸雄が語っていた。「大事な試合で、監督が大事にいこうと堅い作戦を採ると、選手が硬くなる」。選手は常に監督をみている。矢野の姿勢が選手を奮い立たせたと書いた。

 ただし、この日のバントで選手が硬くなったかと言えば違うだろう。消極策かと言えば違うだろう。矢野はクライマックスシリーズ(CS)に入り、采配により柔軟で多彩な姿勢をみせていた。
 前日4日、CSを前に矢野はDeNAで警戒する選手を問われ「監督ですかね」と答えていた。「日本人監督にはない感覚のことをやってくる」と自身と敵将アレックス・ラミレスとの采配をポイントにあげていた。

 1回裏は同じ無死一塁で今季犠打0のネフタリ・ソトは当然強攻で左前打され、筒香嘉智に浴びた先制本塁打は3ランになった。初回は明暗を分ける形となったが、作戦に悔いはないだろう。後の継投策では積極的で、逆に上手をいった。

 矢野は「選手がやってくれたんですよ」と言った。「最後まであきらめない」「誰かを喜ばせる」、そしてスローガンに掲げた「オレがヤル!」。就任時から繰り返した精神は徐々に、確かに浸透し、感動的な勝利となった。=敬称略=(編集委員)

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