【内田雅也の追球】「青春の特権」を強みに――“若さ”で敗れた阪神 “若さ”でやり返せ

[ 2019年8月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―1中日 ( 2019年8月28日    甲子園 )

6回1死一塁、近本は二盗に失敗し、三振併殺となる(撮影・北條 貴史)
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 0―1は切ない。敗戦後、ベンチ前に出て一礼した阪神監督・矢野燿大は秋を思わせる風を感じたことだろう。

 夏の終わりに読み返したくなる小説がある。フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』(新潮文庫)もその一つだ。17歳の娘セシルと41歳の父親、その愛人が夏を過ごすコート・ダジュールの別荘に、亡き母親の友人アンヌがやって来る。父親と再婚する気配が見え始め、セシルは阻止しようと計画を練る。

 アンヌは母親のように振る舞い、セシルに厳しく接するようになる。勉強や恋愛、行動を叱る。

 「あなた、将来のことなんてほとんど考えないでしょう? そうでしょ? 青春の特権ね」

 青春、若さの特権は確かにある。失敗を恐れずに挑む。可能性を信じて突き進む。時にアンヌの言う失敗もおかす。

 阪神先発、青柳晃洋も若い。プロ4年目の25歳、通算15勝の投手だ。

 0―0で後半に入った6回表、阿部寿樹の本塁打が決勝点となった。2ボール―2ストライクと追い込んでからのスライダーだった。スライダーを4球続け、大切な決め球が最も甘かった。左中間席まで運ばれた。

 8安打されながらよく粘った青柳だが、うち半分の4本が2ストライク後だった。詰めの甘さだと指摘するのは易い。

 だが、今の先発陣で勝ち頭(6勝)の青柳も十分に承知していよう。セシルも先のアンヌの指摘に言い返している。

 「若い若いって、そんな風に片づけないでよ。(中略)青春がすべての特権や、言いわけの権利を私に与えてくれているとは思わないわ」

 打線は1点が遠かった。6回裏、一塁走者・近本光司、打者・福留孝介でまさかの三振併殺。7回裏はジェフリー・マルテの二塁憤死。そして2死二、三塁で代打・鳥谷敬の不発。今季いまだ打点0の鳥谷起用は批判覚悟の勝負手だったか。打てば鳥谷は若返り、チームも勢いがつくとの願望も込めたロマンだろうか。

 ベテランも敗戦を背負う内容だった。ただし<野球選手はいくつになっても監督にいわせれば“kids”であり、“boys”なのである>と山際淳司が書いていた=『アメリカ スポーツ地図』(角川文庫)=。

 ならば、その若さがほしい。「青春の特権」を強みとして生かしたい。今月1日以来27日ぶりに帰ってきた甲子園だった。高校球児が去った舞台で、熱闘再びといきたい。=敬称略=(編集委員)

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