【元NHKアナ小野塚康之の一喜一憂】奥川に挑む智辯和歌山は美しかった
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高校野球の良さは何ですかと良く問われる。技術の巧拙や運動神経などに関係なく「自己ベストを尽くす姿です」と私は即座に応える。
今日の星稜対智辯和歌山は、まさにそのものだった。グラウンドからネット裏下の通路を通って取材に応じるため引き揚げてきた選手たちの様子を見た。先に勝った星稜が現れた。熱闘を示すように多くの選手のユニホームは汗と土で汚れ、顔は紅潮したままだ。意外にも喜びは感じられない。試合で全身全霊を尽くした印象だった。一方、後続の智辯和歌山のナインには加えて悔しさが滲んでいた。
星稜のプロ注目の奥川恭伸投手という特殊な存在が支配する試合と言って良かった。まず誰も奥川投手が打たれることを想定しない。試合前の星稜の林和成監督の言葉を借りれば「奥川が注目されますが、うちの打線と智辯和歌山の投手陣の勝負です」。これは間違いなく奥川投手への自信だ。
試合前から奥川投手が智辯和歌山に重圧をかける。5得点3失点というのが中谷仁監督のいつもの勝利のための条件だ。しかし今日だけは違う。「0」か「1」でないと勝ち抜けない。チームの目標は全国制覇だ。智辯和歌山の選手が奥川投手に闘志をむき出していたそうだ。
まず、小林樹斗投手が先発を直訴したという。「奥川相手なら僕を行かせてください。状態もいいし任せてください」。キャッチャー出身の中谷監督は彼の性格と、投手はそのくらいはっきり口にする時の方が良いと託した。今日は“投手陣の日”だ。備えは万全に1回からサウスポーの矢田真那斗投手をスタンバイ。その後はエースナンバーの池田陽佑投手に任せるプランだ。目標は最少失点。
守備ではミスは許されないと選手たちは認識を一つにしているという。なんてことだ。こんなダメダメという縛りの中で、しかも大観衆、熱中症にも見舞われる可能性のある猛暑、台風通過後で風も不安定。選手の立場を想像するだけで「いやいや大変なモノを背負ったな!」と思ってしまう。あとは自慢の打線が奥川投手を打ち崩し“強打・智辯和歌山”の流れに持ち込むこと。でも希望的観測だ。但し中谷監督は“気は優しくて力持ち”のタイプで一人一人個別に伝わりやすい言葉を選び、穏やかなトーンで「奥川対策」やチームですべきことなどを伝えたという。
ゲームが始まった。今日の奥川投手は「半端ない」。立ち上がりから150キロ超えを連発。スライダーも「キレキレ」だ。三振の山を築いて行く。スライダー、カットボールもいわゆる“大人の技術”の域だ。奥川投手のストレートに振り遅れ、詰まり、スライダーやカットボールに腰が入らない。圧倒される。おまけに甲子園のスコアボードに表示されるスピードに観衆はどよめき、大喝采を送り、スライダーの鋭さに唸る。4万5千の観衆の多くを味方につける感じだ。しかし智辯和歌山は怯まない。たとえ三振でも振って行く。“アルプスのジョックロック”や“アフリカンシンフォニー”の音量も、いつもの5割増しの気合いで後押しだ。
投手陣も先発直訴の小林投手がランナーを出しながら粘りに粘る。3回まで「0」を重ねる。4回犠飛で1点を失うと、中谷監督は迷いなく左腕の矢田投手にスイッチする。期待に応え「0」を積む。最善の決断に最良の結果でこたえる。ベンチ、選手の一体感を感じる。早めのリレーが中谷監督の攻めの姿勢だった。6回、3番西川晋太郎のタイムリーで追いつく。
そして勝負の駒、エースナンバーの池田投手を送り出した。もうここからは、絶対に引く事のできない“奥川とのガチンコ勝負”しかなかった。
池田投手は出番を待っていた。
「奥川と投げ合いたかった。メチャメチャ意識している」。
ダイナミックに体を使い躍動する。
「マウンドに上がるのが嬉しかった」
この夏、磨きがかかった140キロ後半のスピードボールが冴える。
「今、ストレートに自信が持てる」
スライダー、カットボールも交える。
「コンビネーションもうまく出来た」
奥川投手相手に一歩も引かぬ投球で流れを渡さない。
「奥川がいいのは見ていて分かった」
9回まで「0」を並べる。延長戦だ。
「絶対点をやれない、この緊張感はとても楽しかった」
10回、11回は先頭出しながら凌ぐ。
「投げ続けたい。ずっと終わりなく」
ついに13回タイブレーク。
「今まで無かった力みが出てきてしまった」
そして14回ラストシーンを迎える。
延長14回の裏1対1の同点、星稜の攻撃、ワンアウトランナー一、二塁、智辯和歌山のマウンドには右のオーバーハンドの池田。8イニング無失点の好リリーフ。バッターボックスに6番福本ここまで5打数2安打。第1球を投げました。速球空振り。2安打ですが、池田とは3打数ノーヒット三振1つ。星稜サヨナラのチャンス。外野はホームで刺せる位置まで前進。14回の裏星稜、ピッチャーセットポジションに入りました。
右打席に福本、池田第2球を投げました。スライダー真ん中、打った!い~い当たり!左中間サヨナラ確実の打球~! 二塁ランナー三塁回った。打球はスタンドまで行ったぁ~!サ・ヨ・ナ・ラ3ラン!
4対1星稜がホームランで決着を付けました。サヨナラ勝ち!
立ち尽くし打球方向を見つめる池田、膝に両手を置き、がっくり池田、ベンチから智辯の選手が池田に駆け寄る。マウンドに崩れ落ちる池田!
胸を張れ池田、3年の夏に努力を結実させた選手は素晴らしい。マウンドにいることが、投げることが楽しいと言い切れる投手は一流だ。エースナンバーを背負って決着のマウンドに立っていた!自己ベストを更新し、責任を全うした君の姿はピカピカに輝いて美しかった。
◆小野塚 康之(おのづか やすゆき)元NHKアナウンサー。1957年(昭32)5月23日、東京都出身の62歳。学習院大から80年にNHK入局。東京アナウンス室、大阪局、福岡局などに勤務。野球実況一筋30数年。甲子園での高校野球は春夏通じて300試合以上実況。プロ野球、オリンピックは夏冬あわせ5回の現地実況。2019年にNHKを退局し、フリーアナウンサーに。
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