第17回 米国での2年がなかったら…

[ 2008年8月18日 06:00 ]

 アメリカでは、選手としてだけじゃなく監督、コーチ、フロント、裏方、ファンとして…。いろんな角度からアメリカ野球を見て、体感することができた。この2年間の経験を持つ自分と持たない自分。雲泥の差があると思うし、もしこの経験がなかったら…。そう考えると怖いよね。頭が良い悪いでもなく、学ぶか学ばないか、その時期が早いか遅いか。すべてのことを知り尽くすことはできないけれど、可能な限り学んで知りたい。そして何かを感じたいよね。

 遠征で初めてチャーター機に乗った時。機内ではパソコンをしたり電話をかけたり。食べ放題飲み放題、音楽かけ放題で…。あとは席順が年功序列なのか、気の合う仲間同士で座るのか、とかね。話には聞いていたけど、聞くと見るとでは全然違う。21連戦も体力的、精神的にも本当にきつかった。日本での9連戦は何だったのか…。5時間の移動に、3時間の時差があって気候も違う。これも経験してみないと分からないこと。早めに1人で球場に行って、グラウンドキーパーの人たちがどんな整備をしているか見たこともある。
 試合でもそう。メジャーは本塁打や速球といった、派手なところばかりクローズアップされる。でもブレーブスとか毎年安定して勝つチームは、日本のような野球をするんだよね。たとえば無死二塁。初球は決して打たず、粘った末に(進塁打の)一塁ゴロ、二塁ゴロで喜んでいた。そういうプレーをベンチ全員で称える。地味だけどチームにとって大きな仕事。そんなシーンの1つ1つが本当に勉強になった。
  07年、桑田は2月5日にキャンプ地のフロリダ州ブラデントン入り。右足首じん帯断裂のリハビリを球団施設で行うなど、3Aに合流する6月1日までの約4カ月間を同地で過ごした。
 ケガの後はマイナーに合流して開幕からの流れ、コーチの指導法なんかもじっくりと見ることができた。もし若い頃にアメリカに来ていたら、余裕がなくて選手の目でしか周囲を見られなかったと思う。日本での21年間の紆(う)余曲折が、物事をいろんな角度から見る目を養ってくれた。
 もちろん時々ホームシックにもなった。そんな時によく聴いていたのがマイケル・ブーブレ(32=カナダ出身の歌手)の「ホーム」。「I wanna go home」って歌詞が何度も繰り返される静かな曲。夜、独りでこの曲を聴いて故郷を懐かしく思ったよ。そして今、僕は現役生活を終えて故郷日本に帰ってきた。<紙面掲載 2008年5月2日>

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2008年8月18日のニュース