師匠・杉本八段、「藤井棋聖」に感極まる…東海地区に悲願タイトル「夢でした」

[ 2020年7月17日 05:30 ]

藤井棋聖誕生 史上最年少タイトル獲得 ( 2020年7月16日 )

史上最年少記録となるタイトルを獲得し師匠・杉本昌隆八段(左)から花束を贈られる藤井聡太新棋聖(撮影・後藤 正志)
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 藤井聡太七段(17)の師匠である杉本昌隆八段(51)は、愛弟子とともに穏やかな笑顔で記念撮影に応じた。快挙達成の瞬間は、対局の行われた関西将棋会館で見届けた。最初の出会いは藤井が小学1年のとき。それだけに「10年前、小学生の聡太少年に出会ったときからこの日が来ることを確信していました」と感慨もひとしおだった。そして、藤井と同席した終局後の会見では「タイトルは私たちにとって夢ですし、大きなプレゼント。私の師匠も東海にタイトルを持ち帰るのが夢でした。それを私の弟子が今回ついに持ち帰ってくれた。たいへんうれしい」と感極まった様子だった。

 まさに悲願だった。過去に中部圏生まれの棋士はいたが、在住や活動拠点は東京や大阪。藤井は中部圏在住(愛知県瀬戸市)の棋士として初めてのタイトルを手にしたことになる。かつて名古屋を拠点に活動した板谷進九段(1988年死去、享年47)は、藤井の師匠・杉本の師匠で、藤井の「大師匠(おおししょう)」に当たる。研究相手に事欠き、最新棋譜の入手に時差が生じる格差の中、板谷はタイトルにこそ手が届かなかったが、名人に次ぐ10人で構成するA級順位戦に7期在籍した。

 板谷の一番弟子・小林健二九段(63)は「師匠は名古屋に住む棋士にタイトルを持ち帰ってほしいと願った」と杉本と同様に振り返り、藤井のタイトル獲得を祝福した。藤井は最近になって、将棋連盟から最新の扇子を発売。「大志」「飛翔」「専心」に続く4本目の文字は、初めての1文字となる「進」とした。小林は「“板谷進がいた名古屋にタイトルを”との思い、そして“前進”をかけているのではないか」と心中を推し量った。

 東京と大阪にある将棋会館を、名古屋に設立するのも板谷の悲願だった。東西の棋士が対局する際、会場は上位者の地元が基本。近い将来、藤井が複数冠を獲得しても大阪、もしくは東京へ出向き続けるのかどうか。17歳の快挙が塗り替えるのは、棋界の日本地図かもしれない。

 《棋聖戦争った2人は遠い親戚》渡辺と藤井で争った棋聖戦。2人は、小林を介して遠い“親戚関係”にある。小林は杉本の兄弟子だが、板谷が亡くなった当時、杉本が四段昇段前だったため「預かり弟子」として身元保証人になった。いわば藤井の“大師匠”とも言える存在。さらに小林の弟子の伊奈祐介七段の妹で「将棋の渡辺くん」の作品がある漫画家・めぐみさんが渡辺夫人。「どちらも応援しないと決めてます」。小林は静かにその行方を見守ってきた。

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2020年7月17日のニュース