藤井新棋聖の強さとは――飛躍した序盤、あえて相手の得意戦法に飛び込み強み吸収

[ 2020年7月17日 06:15 ]

藤井棋聖誕生 史上最年少タイトル獲得 ( 2020年7月16日 )

第91期棋聖戦5番勝負の第4局で渡辺明棋聖を破り最年少タイトルを獲得した藤井聡太七段(日本将棋連盟提供)
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 史上最年少でタイトルを獲得した藤井聡太。14歳2カ月でプロ入りを果たして以降、その歩みを止めることなく成長を続けてきた。“現役最強”とされる渡辺明を破った強みは、どこにあるのか。本紙将棋担当の筒崎嘉一記者(48)が分析した。

 世間以上に棋界は驚いている。藤井の急成長に対してだ。渡辺から棋聖位を奪った今、ゲームの最後に待ち構えるボスキャラ「ラスボス」的存在の豊島将之竜王・名人(30)は言った。

 「いつ獲ってもおかしくないし、いずれ…とは思ってましたが、思ったより早かった」。そう祝福した後、自身との対局へ向け「成長のスピードが(周りと)違う。どうしたらいいのかなと思う」と戸惑いに似た言葉をつないだ。藤井に過去4戦負けなしの第一人者が認める成長力。同様の光景を3年前、我々は確かに見たはずだ。

 四段になって迎えた2016年、加藤一二三・九段戦から始まるデビュー以来の29連勝。プロ入り後の「第1次成長期」がこの連勝中とするなら、「第2次成長期」がコロナ禍で6月2日まで対局がなかった52日間だろう。忘れがちだが棋士と学生の二刀流。その間、将棋一本で取り組めたのではないか。

 デビュー当初から光ったのは終盤での強さだった。詰将棋解答選手権5連覇が示す、相手王を詰ます能力。将棋はどれだけ大差がついても一方が投了するまで勝利は確定しない。野球なら10点差が開く内容でも、3点を追う9回2死満塁が延々続く。一打逆転が常にあるから抜き出た終盤力は本当に心強い。

 一方で、序中盤には経験値不足が原因の粗さがあった。最近、飛躍的に向上した。多くの棋士が指摘するのが「仕掛けの巧みさ」。それへの信用が高まっているからこの日、藤井の仕掛けに渡辺といえども攻め合えなかった。序中盤でペースをつかみ、そのまま勝ち切る将棋が増えた。

 急成長を支えるのは、相手の研究や得意戦法に飛び込んでいく姿勢だ。目先の勝利を求めるなら、それを避けるのが当然。最も学習効果の高い実戦という舞台で、相手の強みを吸収している。これは、好奇心旺盛で新しいものを取り入れる羽生善治九段のスタンスに近いと思う。

 史上最年少の14歳2カ月でプロ入りした後も成長を続け、史上最年少の17歳11カ月でタイトルを奪った。今年度を終える頃、3冠もありうるのではないか。(筒崎 嘉一)

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