復興へのプレーボール~陸前高田市・高田高校野球部の1年~

新入部員へ受け継がれる伝統 希望の春が来た

紅白の幕も飾られ落ちついた雰囲気の中で行われた高田高校の入学式。野球部希望者は例年以上で丸刈りの新入生が目立った

 春、と呼ぶにはまだ肌寒い4月。寒風が吹きつける大船渡市内の仮校舎で6日、高田高校の入学式が行われた。式に際して東日本大震災の犠牲者への黙とうがささげられ、祝辞でもあの日の大惨事に触れる言葉が多く聞かれたが、新入生180人は、新しい制服に身を包み笑顔を見せた。昨年は震災の影響で1カ月延期され、制服もそろわぬまま挙行された入学式。あれから1年を経て、当たり前の入学式を行える喜びを味わった。期待と希望とともに。高田高校の春が始まった。

 「新入生入場、拍手でお迎えください」

 午前9時50分、司会の川口倫(ひとし)教諭(38)の声が体育館に響き渡り、吹奏楽部が「希望の光」を奏で始めた。入場する新入生、180人。「夢や希望を実現するのは、あなたたち自身。失敗は新たな経験、生活の糧になります」と、工藤良裕校長(55)が壇上から優しく語りかける。見守る教職員や保護者の笑顔。たくさんの喜びに包まれ高田高校がまたひとつ、歴史を刻んだ。

 「震災を経験して進路を変えました」。陸前高田市米崎中から入学した吉田凜之介は、プロ野球選手になる夢を持つ。当初は、岩手県内陸の強豪私立校への進学を希望していた。でも、「甲子園に行って活躍すればいい。甲子園に行けば、地元の人も喜んでくれる。プロ野球にもきっと入れる」と思い直し、進路を変えた。兄は3年生の頭脳派捕手・心之介。学年でも上位の成績を誇る兄は、練習を終えて家に帰れば勉強に励む日々を送る。ゆっくり話す機会は少ないが、高田高校の練習メニューなど尋ねれば丁寧に教えてくれる。兄の姿は、弟の生きる指針となった。

 菅野港(みなと)もまた、3年生の投手・海(ひろ)の姿に影響を受け高田高校への進学を決めた。「お兄ちゃんは怖いです。でも、お兄ちゃんがいるから自分の中でも高田高校は特別な存在になりました」。4人兄弟の末っ子。中学時代は外野手だったが、高校では投手に転向したいと考えている。兄のような、堂々とした投手になりたい。

 1年を経て、2年生には後輩ができた。現時点で30人超の入部希望者が予想され、2年生の二塁手・金野樹(たつき)は「しっかりしなくちゃいけないですね」と気を引き締める。3月24日から行われた東京、関西への遠征。金野は2年生の野手で唯一、35人のメンバーに選出された。「まさか自分が選ばれるなんて思ってなくて、本当にびっくりしました」。早実や日大三、北大津などの強豪校との練習試合は、金野に刺激を与えた。そして、初めて観戦した甲子園。高いレベルの試合を目の当たりにして、何事にも動じない強さを身につけたいと考えるようになった。「期待には絶対に応えたいって思います」。そう言えるだけの経験は、1年間で積んできた。

 3年生は、最上級生になった。09年7月の岩手大会準々決勝。菊池雄星(現西武)擁する花巻東を相手に、互角に戦った高田高校の姿に憧れた中学生は、「県立高校で私学を倒したい」という希望を胸に集まった。そして今年、最後の夏を迎える。「早いですね、もう4月。夏まであっという間です。本当に早いなあ」。3年生の外野手・梅田隼人は感慨深そうにつぶやいた。

 なくしてしまったものは、また積み重ねていこう。その手でまた、増やしていこう。全国の球児が待ち望む特別な夏まで、季節はあとひとつ。入学式を終え、笑顔で記念撮影を行う新入生。待ち構えたように、グラウンドでは野球部の練習が始まる。そこに、風とともに春の雪が舞った。

[ 2012年4月7日 06:00 ]

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