復興へのプレーボール~陸前高田市・高田高校野球部の1年~

書くこと迷った…それでも「区切りつけるきっかけに」

[ 2012年1月19日 06:00 ]

室内練習場のブルペンで投球練習する及川

 及川は作文コンテストに応募することを迷ったという。「何か(自らの体験を)残しておきたい気持ちもあったけど、思い出すのはちょっと…という気持ちもあった」という。それでも書き始めたら「400字詰め原稿用紙で)10枚では足りない。もっと書ける」と感じた。「あの記憶は鮮明に残っている。一つ一つ思い出せる」の言葉通り、その文章は正確だ。

 作文は「揺れる地面。押し寄せる津波」と書きだす。「三月十一日。その出来事は、一瞬で私達の未来を変えた」と続けた。そして、その後の野球部の活動、自らの心情を丹念に綴った。3月12日の父との再会、震災後、初めて食べた梅干しのおにぎりの味。そして、津波で自宅が流されたことを知ったときのショック。「家族でお祝い事をしたこともケンカしたこともあった。でも、その思い出の場所は、もうない」と書いた。家族が無事だったことだけがわずかな救いだった。

 強烈すぎる体験。それでも及川は「作文を書くことで自分の気持ちに区切りをつけるきっかけになった」と言う。少しずつゆっくりと。彼らにとっての「成長」とは、心の傷を癒やすための長い旅でもある。

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