復興へのプレーボール~陸前高田市・高田高校野球部の1年~

校長もリーダー的役割期待

[ 2012年3月10日 06:00 ]

全国からのメッセージや支援に感謝する工藤校長

 全てを失い、笑顔を浮かべることさえはばかられる生徒に、いかに普通の高校生活を送らせることができるか。高田高校の工藤良裕校長(55)は1年間、そのことにずっと腐心してきた。

 「職員にはずっと生徒の話を聞いてやってほしいと言ってきました。田舎の学校にはカウンセラーが常駐しているところは少ないので」

 震災後。入学式を行ったのは県内で最も遅い5月10日だった。本来ならば少しでも授業を詰め込みたいところだが、震災直後は午後の授業を職員と生徒との面談の時間に充てたほか、震災前まで行っていた課外授業を取りやめた。「校舎が大船渡に移って朝早く来ることができないし、自分から勉強するようにしないと」。職員には「授業が勝負だよ、自分で考えさせるチャンスだよ」と話し、量より質を優先した。

 生徒が複雑な思いを抱えながら登校していることも、授業などに取り組む環境が十分でないことも分かっていた。しかしあえて勉強することの大切さを説いた。「だって、被災したからといって合格させてはくれませんから」。一方で就職を希望する生徒のために、校長自ら近隣の企業を回って歩いた。その結果、就職希望の生徒は全員が内定をもらった。

 工藤校長は、過酷な環境の中で甲子園を目指している野球部に期待していることがある。「野球部はあいさつなどの面でリーダー的役割を果たしている。おかげでいろいろな団体から高田高校の生徒は立派ですね、と言ってもらえる。頑張って練習しているしね」。放課後のグラウンドに球音が響く。震災から1年、工藤校長はようやくそんな日常を校長室から眺めることができるようになった。

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