復興へのプレーボール~陸前高田市・高田高校野球部の1年~

トイレの神様…甲子園に行かせて

[ 2011年10月14日 06:00 ]

携帯電話の液晶の明かりを頼りに仮設住宅地のトイレ掃除をする高田高ナイン

 高田高校野球部が定期的に行っているのがボランティア活動だ。周辺のゴミ拾いやトイレ掃除。地域に役に立つことをするのだ。東日本大震災以前から週に1度、放課後にこうした活動を行っていた。震災後は仮校舎である旧大船渡農や町営住田球場、そして現在は仮設住宅が建つ、かつての高田高校野球部グラウンドに出向く。

 「時々、震災がなかったらなあ、と思うことはあります」と外野手の佐藤宏樹(2年)は言った。現在は仮設住宅が建ち並ぶ同グラウンドは、津波で全壊した高田高校校舎裏の高台にある。二塁手の吉田翔、遊撃手の近江輝(ともに2年)とともに、3台ある仮設トイレのタンクに水を満たし、便器をこすった。仮設トイレの中には照明はなく、携帯電話の液晶画面の明かりを頼りに作業を続けた。

 あの3月11日午後2時46分。野球部員はこのグラウンドにいた。当時のことは多くを語らない。その後、数々の苦労があったが、それを口に出すのを潔しとしないのだ。佐藤は「練習時間とかがなかなか取れないので…。言い訳にはしたくないですけれど…」と言った。精いっぱいの本音だった。

 1時間ほどで作業は終わった。「雄星さん(西武・菊池)もトイレ掃除やられていたって聞きました」と近江ははにかんだ。菊池が花巻東時代、人の嫌がるトイレ掃除を率先して行っていたエピソードは、地元の球児たちには有名だ。雄星の存在は今も特別だ。

 トイレの神様が、本当にいるのなら。3人は口をそろえた。「甲子園に行きたい」。トイレには女神さまだけでなく、野球の神様もいる。そう信じている。

 ≪♪トイレの神様とは≫植村花菜の作詞・作曲による、自身の亡き祖母との思い出を歌った曲。トイレにはきれいな女神様がいて、毎日きれいにしたらべっぴんさんになれる…、との祖母の言葉などを歌にした。ミニアルバム内の1曲だったが、ラジオなどで評判になり10年11月にシングルカットされた。同年のNHK紅白歌合戦にも出場。翌11年1月にはオリコン1位となった。小説、絵本やテレビドラマなどにもなっている。

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