【内田雅也の追球】「最悪」回避の併殺打 無死一、三塁で貴重な追加点もたらした大山

[ 2023年6月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8ー0中日 ( 2023年6月29日    甲子園 )

<神・中>3回無死一、三塁、大山の併殺打の間に1点を挙げる(撮影・大森 寛明)
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 以前も書いたが、格好の例なので、もう一度書く。落合博満は中日監督時代、「併殺打を打った打者を握手で迎える」と話していた。得点が入ったケースである。

 たとえば、2010年4月15日の横浜(現DeNA)戦。4回裏無死満塁で遊ゴロ併殺打の井端弘和をたたえている。

 「あそこで最悪は三振かポップフライで、次の打者が併殺という攻撃。あの1点がなければ、後の点は入っていない。ああいう野球でいいと言い続けているが、なかなかできない」

 ならば、この夜の阪神・大山悠輔の併殺打はどうだろう。3回裏無死一、三塁。左腕・松葉貴大の初球、外角シンカー気味シュートを引っかけて三ゴロ併殺打に倒れた。5―4―3と転送される間に三塁走者が還った。2点差を3点差に広げる貴重な追加点となった。

 ベンチで監督・岡田彰布が握手で迎えたかどうかは見えなかった。打撃コーチ・今岡真訪に聞くと「岡田監督も同じだと思います」と話した。「現役時代から考え方を聞いていますので分かります。併殺打をとがめたりせず、それで構わないと思っているはずです」

 岡田も落合同様に投手力を含めた守りの野球を掲げ、1点の積み重ねを重んじる。自ら「マイナス思考」と言い、最悪を想定した采配をする。

 大山は前の打席、1回裏1死二、三塁で外角低めチェンジアップを空振り三振に倒れていた。二遊間は深く守っていた。前にゴロが転がれば1点という場面で、最悪の打撃をしていたのだ。

 「前の打席の反省を生かして、あの打席はこうして――」と今岡は構えやステップなど、大山のフォームをまねながら話した。「――空振りせずに前に打とうとする姿勢が見えていました」

 初球から打ちに出ての三ゴロだった。「最悪」を回避したのである。

 当たりは痛烈で、バットの芯で打った強烈なゴロだった。

 「あれでいいんです」と認めた後、今岡は「でもね」と言った。「もう今の大山ぐらいになれば、あの打撃ができるのは当たり前と言いますかね。百も承知なんです。たとえば、サトテル(佐藤輝明)なら“そんな考え方もあるのか”となるかもしれませんが、大山はそんな低いレベルではいません」

 優勝を狙うチームの4番である。最悪回避どころか、最高を求めているのだろう。=敬称略=(編集委員)

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