プロ初勝利の戸根は「鋼鉄のハート」高校時代から図太い神経

[ 2015年9月12日 18:52 ]

<巨・D>ウィニングボールを手に笑顔を見せるプロ初勝利の戸根

セ・リーグ 巨人6―3DeNA

(9月12日 東京D)
 開幕から先発ローテーションの一角で活躍するオールドルーキー・高木勇人投手(26=三菱重工名古屋)の陰で、もう一人の「新人らしからぬ新人」が巨人の投手陣を支えている。12日のDeNA戦でプロ初勝利を挙げたドラフト2位ルーキー・戸根千明投手(22=日本大)。その高校時代を目撃している野球ライター・菊地選手が、戸根の「鋼鉄のハート」にまつわるエピソードをつづった。

 今の戸根千明と、6年前に見た戸根千明。外見上は同一人物として結びつかない。

 「今の戸根」は、言わずもがな巨人の中継ぎ陣に定着している戸根だ。22歳のルーキーながら、初々しさはもはやない。173センチ93キロ、ずんぐりむっくりの体型とマウンドでのふてぶてしいたたずまいから、すでにプロの一軍で何年も禄を食んでいるかのようなムードを感じてしまう。

 「6年前」の戸根を見たことがある。2009年秋、鳥取で行われた高校野球の秋季中国大会。戸根は石見智翠館(島根)のエースで3番打者として出場していた。

 当時の体格は173センチ72キロ。今よりも20キロ以上軽かったことになる。のちに日本大に進学してドラフト候補として浮上した際には、「あんな体だったか?」と大いに戸惑った。

 とはいえ、高校時代から決して目立たない存在ではなかった。中国地区では注目の投手。ただ、「高校生としては」という但し書きがついた。

 上背のない体に、常時130キロ前後のスピード、上体の力に頼ったフォーム…。プロを意識するには、もう一、二段階を経ないと厳しいという印象だった。

 ただ、ピッチャーズプレートの一塁側から右打者の内角に向かって投げ込む「クロスファイアー」に威力を感じたことと、スタンドから見ていても伝わってくる負けん気の強さは「買い」だと思っていた。

 試合後には、こんなことがあった。完投勝利を収めた戸根はベンチ裏で数人の記者に囲まれていた。そのやりとりを聞きながら、当初は「やんちゃそうな顔つきだけど、受け答えはしっかりしているな」という印象しかなかった。しかし、最後に記者から「球種は何があるの?」と聞かれた戸根が「言いたくありません」と答えたのを聞いて、「えっ!」と驚いた。

 この試合は中国大会の準々決勝だった。5日後に準決勝が控えており、もし自分の球種が新聞に載ったら不利になると考えたのだろう。とはいえ、メディアの大人たちに囲まれて「球種は言いたくない」と言える球児はほとんどいない。ピッチング以上に、戸根の神経のたくましさが印象に残った。

 それから5年、猛烈な肉体改造でビルドアップした戸根は、巨人からドラフト2位という高評価を勝ち取った。ここまでの成績は、41試合に登板して1勝1敗1セーブ、防御率2.21。これからクライマックスシリーズに向けて佳境を迎えるペナントレースで、戸根の存在感は今後ますます増していくだろう。

 戸根がリリーフとして出てきた際には、この屈強な体の内側には、鋼鉄のハートがあるということを思い出してみてほしい。

 ◆菊地選手(きくちせんしゅ) 1982年生まれ、東京都出身。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。プレーヤー視点からの取材をモットーとする。著書『野球部あるある3』(集英社)が8月に発売されたばかり。

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