“モンゴルの怪物”逸ノ城が初優勝 旋風起こした新入幕から8年 苦難乗り越え「とてもうれしい」

[ 2022年7月25日 05:10 ]

大相撲名古屋場所千秋楽 ( 2022年7月24日    ドルフィンズアリーナ )

表彰式で陸奥事業部長(右)から賜杯を受け取る逸ノ城(撮影・椎名 航)
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 新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大により休場者が続出した大混乱の場所で“モンゴルの怪物”がついに目覚めた。逸ノ城は宇良を寄り切って12勝3敗で終え、同じく3敗だった横綱・照ノ富士が結びで大関・貴景勝に押し出され、初優勝が決まった。ざんばら髪の新入幕で大器の片りんを見せた14年秋場所から約8年。慢性的な腰痛を抱え、コロナ感染で夏場所を全休しながら、復帰場所で悲願の賜杯を抱いた。

 恒例の優勝インタビュー。ぎこちない逸ノ城の初々しさが場内をなごませる。「とてもうれしいです。(結びで照ノ富士が敗れ、自身の初優勝が)決まってくれて良かったです」。無表情のまま本音を吐き笑いを誘った。

 取組では業師の宇良を一方的に退けた。立ち合いは完敗した14日目の明生戦と同じく左で張り、すぐに左上手をつかんだ。右をねじ込んで万全の寄り。「昨日(14日目)は受けてしまった。自分から前に出ればいい」と快進撃につながった取り口を千秋楽も貫いた。

 新入幕の14年秋場所で旋風を起こした。1メートル92、200キロに迫る巨漢。大関、横綱初挑戦で平然と立ち合い変化する度胸があり、まさに“大物”だった。

 しかし恵まれた体格が逆に出世をはばむ。16年夏巡業で腰に激痛が走り、左半身がしびれた。腰椎椎間板ヘルニアで約1カ月入院して同年秋場所を全休し、19年九州場所を再びヘルニアで全休するなど慢性化。「もしかしたら相撲が取れなくなるかも、土俵に上がれないかも」と不安に駆られた。

 その一方で「いつかは優勝したい。やればできる」と自分を信じ続けた。19年春場所は西前頭4枚目で14勝1敗の好成績も、対戦すら組まれなかった横綱・白鵬が全勝優勝。不運にも、めげなかった。

 師匠の湊親方(元幕内・湊富士)は「(新入幕当時は)勝負の神様が“まだダメだぞ”と許さなかった。(一時は序二段まで転落した)照ノ富士ほどじゃないけど、逸ノ城も相当どん底を見ています。いろんな人に支えてもらい、強くなれた」と話し、曲折を経ての成長が初優勝につながったと見立てる。

 米ハワイ生まれ、外国出身のパイオニア・高見山の初優勝は72年名古屋場所。ちょうど半世紀の節目で、首都ウランバートルから約400キロ離れたアルハンガイ県出身で、遊牧民の家庭に育った“モンゴルの怪物”がついに目覚めた。「今回をきっかけに気持ち良く戦っていきたい」。力強く進撃開始を予告した。

 【逸ノ城 駿(いちのじょう・たかし)】☆名前 本名は三浦駿(みうら・たかし)。21年9月に日本国籍を取得。師匠の湊親方(元幕内・湊富士)から三浦姓をもらい、駿はしこ名の下の名前。モンゴル出身で旧名はアルタンホヤグ・イチンノロブ。しこ名の「逸」は本名と逸材の意味を絡め、出身の鳥取城北高から「城」の字をつけた。

 ☆生まれ、サイズ 1993年(平5)4月7日生まれ、モンゴル・アルハンガイ出身の29歳。1メートル92、211キロ。

 ☆競技歴 モンゴル相撲と柔道の経験があり、10年に鳥取城北高へ相撲留学。卒業後、同高コーチを務めながら13年に全日本実業団選手権の個人で優勝。

 ☆スピード出世 14年初場所、外国出身初の幕下15枚目格付け出しで初土俵。新十両の同年夏場所優勝。同年秋場所で新入幕。横綱の鶴竜から金星を獲得するなど13勝2敗で殊勲賞と敢闘賞受賞。“モンゴルの怪物”と呼ばれる。

 ☆上位キラー 今場所5日目に照ノ富士を破り、金星9個とした。現役最多で歴代10位。

 ☆趣味 音楽鑑賞。吉幾三ら演歌を好む。

 【逸ノ城の優勝アラカルト】☆平幕優勝 21年初場所の大栄翔以来34人目。名古屋場所は6人目で初場所の5人を抜いて最多。

 ☆モンゴル出身 朝青龍、白鵬、日馬富士、旭天鵬、鶴竜、照ノ富士、玉鷲に次いで8人目。

 ☆外国出身 72年名古屋場所の高見山(米国)から15人目。モンゴル出身8人のほかに小錦、曙、武蔵丸、琴欧洲、把瑠都、栃ノ心。

 ☆新入幕からの所要場所 14年秋場所から47場所。歴代9番目のスロー記録。

 ☆湊部屋 82年12月に先代師匠(元小結・豊山)が時津風部屋から独立。現師匠(元幕内・湊富士)が10年名古屋場所後に継承し初の優勝。

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