【世界陸上】“マイル侍”ウォルシュは破天荒エピソード満載 「養豚場のおかげで速くなった」

[ 2022年7月25日 17:15 ]

陸上・世界選手権最終日 ( 2022年7月25日    米オレゴン州ユージン・ヘイワードフィールド )

ウォルシュ・ジュリアン
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 1600メートルリレー(通称マイルリレー)の男子決勝に出場した日本代表の「マイル侍」が、日本新記録の2分59秒51で4位に入った。21年東京五輪は、度重なる脚の故障が残って力を発揮できなかったウォルシュ・ジュリアン(25=富士通)が、3走で世界大会18年ぶりの入賞に貢献した。日本のエースの破天荒な歩みを振り返る。

 ジャマイカ人の父と日本人の母を持ち、小中学校では徒競走で「負けたことがなかった」という。しかし、埼玉・東野高ですぐに鼻っ柱を折られた。

 「1年の時に大会で100メートルに出たら、普通に負けて。やる気をなくしてしまった。それで幽霊部員になってしまって。もうどん底っす。超つまんなくて、陸上をやめてやろうって思っていた。俺が負けるのかって。練習は週1くらいしか行かなくて、ゲームばっかりしてましたね」

 2年時に新しい顧問が来て、首根っこを捕まれて練習に参加させられた。教師の熱い指導がなければ、2度と走ることはなかったかもしれない。

 2年で、現在の主戦場の400メートルに初めて出場した。「めちゃくちゃ嫌々だったんですけど」と臨んだ初レースで1位になった。「ボロ勝ち。周りがすげー遅くて。400メートルの練習をしたわけじゃないのに」。隠れた才能に気付き競技熱が徐々に高まった。それに比例して成績も上がった。14年世界ジュニア選手権は、1600メートルリレーで1走を務め銀メダルを獲得した。

 とんとん拍子で力が付いたのは、東野高の練習環境のおかげだと、ウォルシュは真顔で説明した。

 「学校に陸上トラックがなかったので、近くにあるいい感じの急(勾配)な坂道でダッシュをしていたんですけど、そばに養豚場があって。においがきついから、あまり息をせずに、60~70メートルの坂をダッシュしてました。だからっすかね。息をしなかったから、乳酸がたまりにくい400メートル向きの体になったんでしょうね。豚に感謝っすね。あんまり、豚を食べないようにしないといけないっすね」

 この時期に筋トレにも目覚めた。バク宙なども軽々やってのける“身体能力オバケ”は、筋肉が付きやすい体質だった。ボディビルの動画を参考にマネをすると、「超ハマっちゃって。筋肉痛が気持ち良かった」と、64キロの体重が、1年で70キロまで増えた。

 進学先の東洋大では、すぐに土江寛裕コーチに“筋トレ禁止令”を出された。走りのマイナスになるほど、筋肉が付きすぎていたのが理由だ。それにもかかわらず、他部員に「三角筋が落ちたんじゃないの?」と言われたことがショックで、隠れて体を鍛えた。鍛えれば鍛えるほど実になる体質。再び筋肉が盛り上がり、再度、土江コーチに注意されたこともあった。

 奔放な性格ながら、それも魅力の一部分にして、大きな成長を遂げた。東京五輪の悔しさを乗り越え、今大会の400メートルでは、19年世界選手権と同じ準決勝に進んだ。24年パリ五輪では更なる飛躍が期待される。それに伴い、豊かな個性も脚光を浴びるはずだ。

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