森重航が銅メダル 21歳新星、天国の母に贈った 「スケート、頑張れ」最後の言葉を胸に

[ 2022年2月13日 05:30 ]

北京冬季五輪第9日 スピードスケート男子500メートル ( 2022年2月12日    国家スピードスケート館 )

スピードスケート男子500メートルで銅メダルを獲得し、日の丸を広げ笑顔の森重航
Photo By 共同

 21歳の新星がスピードスケート日本男子に12年ぶりのメダルをもたらした。男子500メートルで森重航(専大)が34秒49で銅メダルを獲得した。日本男子の表彰台は10年バンクーバー五輪以来3大会ぶり。この種目で通算10個目のメダルとなり、お家芸復活への一歩をしるした。

 笑顔はない。日本男子12年ぶりの表彰台。森重は「うれしかったけど、緊張して」と無表情だった。今季開幕前までシニアの舞台では無名。昨年10月の全日本距離別で優勝して一躍、注目を浴びたが、国際舞台の場数は少ない。レース中は「緊張しなかった。楽しかった」と五輪独特の雰囲気を満喫したが、不慣れなセレモニーは勝手が違った。

 15組中14組で登場し、1回目のスタートはフライング。ミスを繰り返せば失格の2回目は慎重に飛び出した。100メートル通過は全体5位の9秒63。得意の残り1周で加速した。コーナーの技術は世界屈指。急カーブの連続であるショートトラックやローラースケートを練習に取り入れ、技術を磨いた。滑り終えた時点で3位。「もうちょっとタイムがほしかった」と微妙な心境だったが、最終組で4位になったカナダ選手を0秒03上回った。「メダルは目指していたけど、想像できていなかった」。自身でも想定外の躍進だった。

 19年7月、がんを患っていた母・俊恵さん(享年57)が他界した。幼少時代からサポートを受け、体調の悪い時も大会の応援に駆け付けてくれた存在。同年5月、地元を離れていた森重は母の入院する釧路市内の病院を見舞った。「スケートを一番に考えて、最期は来なくていいからね」。7月17日の19歳の誕生日に電話が鳴った。「スケート、頑張れ」。4日後にこの世を去る母の最後の言葉だった。「スケートに懸ける思いが大きくなった」。この日のホテル出発前にはスマホに保存する母の写真に「行ってきます」と語りかけた。「こういう結果を届けられて喜んでるんじゃないかな」。言葉に実感がこもった。

 メダルを期待された新浜、村上がつまずく中で結果を出し「3人とも強いと言われている中で“誰か一人でもメダル”と思っていた。自分が獲れて安心した」と安堵(あんど)。男子500メートルの銅メダルで山形中央高の先輩である加藤条治に肩を並べたが「まだ超えていないので、次回以降に超えられるようにしたい。4年後、8年後を目指していきたい」と満足はしていない。札幌が招致を目指す30年五輪も見据える21歳。お家芸の未来を担い、黄金への挑戦が幕を開けた。

 【森重航(もりしげ・わたる)】

 ☆生まれ、サイズ 2000年(平12)7月17日生まれ、北海道別海町出身の21歳。兄5人、姉2人の8人きょうだいの末っ子で、14人のおいめいがいる。実家は乳牛約250頭を飼う酪農を営む。身長1メートル75、72キロ。

 ☆競技歴 6歳から地元のリンクに通い小学2年時から別海少年団白鳥に所属する。上風連中時代に全国大会で500、1000メートルの2冠。山形中央高を経て専大に進学。21年にナショナルチーム入り。昨年10月の全日本距離別選手権の500メートルを制し目を浴びた。

 ☆ルーティン レース前はロックバンド「ONE OK ROCK」などの曲を入れたプレーリストから決まった音楽を聴き気持ちを高める。体を硬直させた状態から一気に力を抜く動作を繰り返しリラックス。深呼吸してリンクへ向かう。

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