スケボー女子代表・岡本碧優、敗北が火付けた15歳の闘魂 世界ランク1位、本番前最後の五輪予選で3位

[ 2021年7月16日 05:30 ]

熱のこもった練習を行う女子パークの岡本(撮影・吉田 剛)
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 【メダル候補の心技体】新競技スケートボードの女子パークには、15歳の金メダル候補がいる。岡本碧優(みすぐ、MKグループ)は五輪延期前の予選大会で4戦全勝し、世界ランキング1位で不動の地位を確立した。だが新型コロナウイルスの影響による中断を経て、再開と同時に最後の予選となった今年5月のデュー・ツアー(米アイオワ州)は3位。追われる立場で大一番を前に敗北を知った少女の「心」の変化に迫る。

 わずか12歳で世界のトップに立った岡本は、破竹の快進撃を見せた。19年は五輪予選4戦を含む国際大会6連勝。そんな絶対女王が苦杯をなめたのが、予選最終戦の今年5月のデュー・ツアーだった。ライバルの四十住(よそずみ)さくら(19=ベンヌ)、スカイ・ブラウン(13=英国)に敗れて3位。「良いところはない。全然ダメで点数もつけられない」。そう振り返った岡本は自身の弱さを自覚していた。そして、その自覚こそが成長の証だった。

 東京五輪延期が決まった20年3月末。スケートボードを教わるために小学6年生から下宿しているパーク男子日本トップ選手・笹岡建介(22=MKグループ)の岐阜県の実家で、人ごとのようにニュースを眺めていた。「延期になったんだ」。指導を受ける建介の兄・拳道コーチ(28)に「延期になってみんな碧優に勝とうと新しい技を練習してくるから、大変なことだ」と諭されても実感は湧かなかった。

 岡本は1回転半のエアの大技「540」を武器に頂点まで駆け上がった。19年当時は大会で成功させる女子選手はおらず軒並み高得点がついたが、だからこそ指標になりやすかった。「結局みんな“540をやらないと”となる。延期になって1年の期間ができた時点で、540で勝てなくなることは分かっていた」と拳道コーチ。その言葉通り、最終戦で優勝した四十住は540を成功させた。

 ただ岡本のエアの高さは群を抜いており、540以外でも板を回転させながら手でつかむ「キックフリップ・インディーグラブ」など高難度の技を持っている。本来の力を発揮すれば、簡単に負けることはなかった。それができなかったのは新型コロナの影響で大会の中止が相次ぎ、モチベーションを保つことができなかったからだ。

 緊急事態宣言でパーク施設が閉鎖されてからは、「気持ちが乗らない」と自宅周りを滑ることすらしなかった。そんな岡本を見て、拳道コーチはパーク再開後も「集中できないならケガをするだけ」と休ませる時期もあった。無敗の女王でも、素顔は中学生。目標を失い、拳道コーチが「1年のうち半分は練習できなかった」と振り返るほど苦悩した。年が明けて予選の日程が決まったことで気持ちは持ち直したが、これまで取り組んだことのない走り込みなど体づくりが必要なほど体力は落ちていた。そして最大の問題はそれほどの後れを取ってもなお、岡本の中で「まだ勝てる」という思いがあったことだった。

 最終戦で直面した厳しい現実。五輪まで残された時間は短い。それでも、その現実を五輪前に知ったことが岡本にとっては何よりの収穫だった。「勝つと次も勝てると思う性格。この一年を後悔したし、今回負けたことで次は絶対に負けたくないと思えた。負けたことを良かったと言えるようにしたい」

 もし五輪が昨夏に開催されていれば、難なく優勝できたのかもしれない。道のりは険しくなったが、紙一重だった自信と慢心の違いを知った。少し大人になって臨む大一番は、勝敗以上に大きな価値を見いだせるはずだ。

 ◇岡本 碧優(おかもと・みすぐ)2006年(平18)6月22日生まれ、愛知県高浜市出身の15歳。兄の影響で小学2年生からスケートボードを始め、6年生の12月からパーク男子トップ選手の笹岡建介の実家に下宿して腕を磨く。18年世界選手権5位。19年はデュー・ツアー、世界選手権など五輪予選大会で4戦全勝。予選対象外のトッププロが集まるXゲームも制した。1メートル48、40キロ。

 ≪女子日本代表全員が10代≫スケートボードの女子日本代表は全員が10代。パークで岡本、四十住に続く開心那(ひらき・ここな、WHYDAH GROUP)は12歳11カ月で本番を迎え、夏季五輪では史上最年少出場となる。ストリートは今年の世界選手権で2位に入った西矢椛(もみじ、ムラサキスポーツ)が13歳10カ月で五輪に臨む。中山楓奈(ふうな、同)も16歳で、大会期間中に20歳の誕生日を迎える金メダル候補の西村碧莉(あおり、木下グループ)が両種目通じて最年長だ。

 ≪四十住、ブラウンと三つ巴≫東京五輪の女子パークは岡本、四十住、ブラウンの3強対決となりそうだ。四十住はコース縁を板や車輪の金具で滑るグラインド技やエアトリックなど、多彩な技と高い技術力が武器。英国人の父と日本人の母を持ち、宮崎で生まれ育ったブラウンもコース縁で片手で逆立ちする「ハンドプラント」など派手な技が光る。岡本はエアの高さと高難度の持ち技の精度でどれだけ差をつけられるかが鍵となる。

 ≪12歳11カ月・開心那が夏季日本選手最年少出場へ≫女子パークの開は12歳11カ月で、記録が残る範囲では68年メキシコ大会の競泳に13歳6カ月で出場した竹本ゆかりを抜き、夏季五輪の日本選手最年少出場となる。80年モスクワ大会ではともに競泳の長崎宏子が11歳11カ月、簗瀬かおりが12歳9カ月で出場予定だったが、日本のボイコットで幻となっている。

 今大会の日本男子最年少は、飛び込みの玉井陸斗で14歳10カ月。大会が1年延期されたことで、日本男子最年少の32年ロサンゼルス大会競泳1500メートル自由形で金メダルを獲得した北村久寿雄の14歳10カ月と並び、わずかの日数差で最年少記録に届かなかった。

 日本の最年少メダリストは、92年バルセロナ大会競泳女子200メートル平泳ぎ金メダルの岩崎恭子で14歳6日。12歳の開と今大会の日本選手で2番目に若い13歳10カ月の西矢は、メダル獲得ならいずれも記録を更新する。

 世界に目を移すと、最年少出場・最年少メダリストは1896年アテネ大会の体操平行棒団体銅メダルのディミトリオス・ロウンドラス(ギリシャ)で、10歳7カ月とされる。金メダルに限れば、36年ベルリン大会女子板飛び込みのマージョリー・ゲストリング(米国)で13歳8カ月。開が優勝を果たせば、世界最年少の金メダリストとなる。

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