阿部一二三という男 17歳で見せた強い意思、20代での泥臭さ 柔道家として普遍の姿勢
柔道東京五輪男子66キロ級代表決定戦 ( 2020年12月13日 東京・講道館 )
Photo By 代表撮影=共同
「海老沼を倒して僕がリオデジャネイロに出るんで」
目の前で体中からオーラを放つ17歳は、どんぐり眼をぎらつかせながら、確かにそう言い放った。
海老沼を倒す?
その心意気はもちろん頼もしい。ただ、7歳も年上で、12年ロンドン五輪銅メダリストの海老沼匡を呼び捨てたことに、少々戸惑った。だが、その後も確かに「海老沼を倒す」とはっきり言った。両眼の光はさらに増しているように見えた。
阿部一二三を初めて取材したのは14年8月の全国高校総体だった。当時は本来の柔道担当記者の代理取材。柔道取材自体、初めてだったが、6試合オール一本勝ちの圧倒的な強さと、その後の囲み取材での言動で、阿部一二三という柔道家に一気に引き込まれた。
6年前のフォローをするならば、大人の記者数人の前での言動は若気の至りであり、強い意思表明でもあったと思う。シニアの国際大会で当時実績なしの阿部が、2年後のリオ五輪代表の座を射止めるには、まさに“殿一気”の大逆転劇が必要だった。言葉で表現することで、公の場で発言することで、自分自身を奮い立たせる意味もあったのではないか。結果的にリオ代表は海老沼に決まったが、3度の世界王者を十分追い詰め、16年以降しばらくは文字通り「阿部1強時代」を築いた。
20代に入ってからの阿部は、高校当時ゴリゴリの坊主頭だった頭の丸さが取れた代わりに、人当たりや言動に丸さが備わった。ハンサムで明るく、柔道も豪快となれば人気も出てくる。ただ時々公開される合宿で見せる稽古やトレーニングへの熱の入れようは、泥臭さがにじみ出ていた。18年世界選手権直前に公開された国内合宿。複数のトレーニングを連続してこなすサーキットで、誰よりも速く、丁寧に取り組んでいたのが阿部だった。女の子に負けて、べそをかいていた小学生時代から、猛練習で圧倒的な担ぎ技を身に付けたのが阿部一二三という柔道家の成り立ち。一柔道家としての心根は、どんなに周りに持てはやされても不変だと感じるシーンだった。
こんなこともあった。19年2月、前年に妹・詩との世界選手権兄妹同日優勝を達成し、出席したとある表彰式でのこと。その直前にあったGSパリ大会で初戦の2回戦負けを喫したため、代表質問者から、やや配慮を欠くような質問が飛んだ。テレビを含めた取材が終わり、ペンメディアの取材に移ろうとする前、阿部は自ら申し出てトイレに立った。数分後、会見場に戻ってくると、普段と変わらぬ様子で取材に応じた。後に聞くと、不躾な質問に腹を立てたが、悟られまいと心を静めるために時間を置いたという。
同年6月には、報道陣に公開された代表合宿で、左足首の脛腓(けいひ)じん帯を損傷した。世界選手権が2カ月後に迫る中での暗転。負傷直後は、もちろんケガの内容も全治も分からず、例えようのない不安に襲われていたことだろう。それでも応急処置を受け、他の選手に背負われて道場を後にする時の阿部は、やや引きつっていたが笑顔で「大丈夫です」と言い、病院に向かう車に乗り込んだ。勝負師は人に弱みを見せない。これら2つの出来事は、阿部の「強さ」を象徴するシーンだったように思う。
「海老沼を倒す」から6年。日本柔道界史上、初のワンマッチ決定戦を経て、阿部はついに五輪代表を射止めた。丸山との2年に及ぶ激闘符の末に、百戦錬磨の柔道家でもおののくような一発勝負の決戦に勝った。ちまたでは阿部と丸山は「ひまわりと月見草」に例えられ、あたかも見えざる力が阿部を五輪代表に推そうとしていた、との論調がある。だからこそ、これだけは言いたい。少なくとも畳の上では、公正公平、不偏不党の勝負の末に、阿部はたった1枚の切符を獲得したと。言うまでもなく、それはほとんどは目にすることができない、努力の末につかみ取ったものだと。
東京五輪開幕まで、あと222日。大きな大きな山を乗り越えた阿部の両眼に、夢に見た舞台はどのように映っているだろうか。(記者コラム・阿部 令)
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