23年仏W杯まであと3年 全会場ハイブリッド芝に“スクラム番長”長谷川コーチ「ガッツポーズ」
2023年9月8日に開幕するラグビーW杯フランス大会まで、8日でちょうど3年前になる。現地の大会組織委員会への取材により、全9会場がハイブリッド芝で行われることが判明した。このほど取材に応じた日本代表の長谷川慎スクラムコーチ(48=ヤマハ発動機ハイパフォーマンスコーチ)は、ジャパンが苦手としてきた足場が緩いグラウンドが一つもないことに、「ガッツポーズですね」と声を弾ませた。
日本代表にとって芝は死活問題だ。スパイクが地面に引っかかるかどうかで、スクラムの成否が左右されるからだ。
このほど、23年フランスW杯の9会場全てで、ハイブリッド芝で行われることが判明した。ハイブリッド芝は、人工繊維の補強材を地中に埋め、芝の根がそれに絡むことではがれにくくなっている天然芝のグラウンドだ。
長谷川スクラムコーチは「1会場でも純粋な天然芝の会場があれば、それ用の組み方を準備しなければいけないと思っていた。全会場がハイブリッドなら、ガッツポーズですよね」とニヤリとした。
ジャパンは欧州の芝生を長く苦手にしてきた。踏ん張ると、根こそぎめくれる粘土質の軟らかい土壌だと、「技術ではなく、重さ勝負になって、体格やパワー差が影響する」からだ。16年11月のフランス遠征のフィジー戦(●25―38)は、その典型例。脆弱(ぜいじゃく)な足場に力をそがれ、8人一体で押す低いスクラムが組めなかった。
「日本は芝生に合うスパイクのポイントの長さを使い、首や足の角度はこうする、という細かいことを積み重ねて100%のスクラムをつくっている。一つでも欠けると、90%になってしまう」
日本も外国出身者が増えて総重量が増したとはいえ、膝の角度、膝の高さをそろえるような緻密さがあったからこそ、19年W杯の8強を支えるスクラムができた。“スクラム番長”が4年間で作った資料は、相手の分析を含めてA4用紙2080枚分。「欧州とは異なる日本の引っかかる芝を前提に組み方を考えた」というグラウンド条件から逆算した強化計画が実り、「スクラム弱小国」のレッテルをはがした。
感染病で活動が制限された間、昨年W杯で日本が組んだスクラムを全て見直した。組み直しを入れて合計92本。1本ごとの解説と、その場面の映像がパソコンの中に入っている。次のW杯へ、戦いはもう始まっている。
「次に誰が代表に来ても見せられるように、ね。19年を見て、俺もできるというイキのいいやつが出てくるかもしれない。みんなにチャンスがある」
日本が目指すスクラムは「見てきれいなスクラム」と断言する。8人がサッと集まって「力を漏らさない」姿勢をつくり、ヒットしても足がピタッと止まったままの様子は、足や体がバタバタ動く海外のそれと違い、いかに組織的かが分かる。
「(ヤマハ発動機の)堀川監督が、日本のスクラムは科学と非科学とアートだと言っていた」という言葉は言い得て妙。センチ単位にこだわる理論、ハードトレを乗り越える根性、そして形の美しさ。三つの要素を結集し、再び世界に挑む。
◆長谷川 慎(はせがわ・しん)1972年(昭47)3月31日生まれ、京都市出身の48歳。現役時代はプロップ、フッカー。京都・東山高2年で花園出場。中大を経てサントリー入り。99年、03年のW杯に出場し、日本代表40キャップ。07年に引退し、サントリー、ヤマハ発動機でコーチを歴任する。16年秋に日本代表コーチに就任し、サンウルブズでも指導。現在は代表とヤマハ発動機のコーチを兼務。1メートル79。
▽ハイブリッド芝 地中にある人工繊維に、芝の根が絡んで生育することで、芝がはがれにくくなる。人工芝と勘違いされるが、天然芝。8センチほどの分厚い層の人工繊維を地面に敷き、そこに芝が根を張ることで強い地盤が作り出すタイプがフランスでは主流。国内では釜石鵜住居復興スタジアムで導入された。W杯で日本代表が戦った日産スタジアムと味の素スタジアムは、別のタイプのハイブリッド芝。
▽フランスW杯 23年9月8日に開幕し、10月21日が決勝。19年日本大会の1次リーグ各組3位以上の12チームが既に出場権を持つ。8強の日本のほか、優勝した南アフリカ、開催国フランス、イングランド、ニュージーランド、ウェールズ、オーストラリア、アイルランド、スコットランド、イタリア、アルゼンチン、フィジー。残り8チームは大陸予選などを経て、22年11月までに決まる。
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