バド日本男子“初メダル”へ ソノカム、富山の星になる

[ 2019年11月19日 10:00 ]

2020 THE TOPICS 話題の側面

東京五輪への意気込みを語ったバドミントン男子ダブルスの「ソノカム」こと園田(右)と嘉村(撮影・森沢 裕)
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 16年リオデジャネイロ五輪で地元出身の柔道・田知本遥とレスリング・登坂絵莉の金メダル獲得に沸いた富山県。東京五輪はバスケットボールの八村塁(21=富山市出身)が注目されるが、“富山勢”ではトナミ運輸(本社高岡市)のバドミントン男子にも期待がかかっている。特にダブルスの“ソノカム”こと園田啓悟(29)嘉村健士(29)組は日本男子初の五輪メダルを狙える存在だ。

 バドミントンは男子シングルス世界王者の桃田賢斗や五輪2大会連続メダルの女子ダブルスだけじゃない。世界ランク4位(11月12日時点)、今春には過去最高の2位まで上昇したソノカムには、日本の男子ダブルスを背負う使命感がある。

 嘉村「どの種目よりも展開が速い。この魅力を伝えるためにも五輪でのメダルが必要」
 園田「圧倒的なスピード、豪快なスマッシュを見てほしい。男子ダブルスを盛り上げるためにも東京五輪では絶対に結果を出す」

 プレースタイルは男子ダブルスの魅力そのものを表す「低空高速ラリー」だ。ネットすれすれにライナー性のシャトルがバンバン飛び交うラリーは卓球のようで、ゲームを読む力に優れた前衛タイプの嘉村が前へ突っ込んで崩し、身体能力の高い後衛タイプの園田が後方で拾い、かつガンガン打ち込む。昨年の世界選手権で準優勝。ワールドツアーでもコンスタントに表彰台に上がり、海外勢のマークも厳しくなったが、「ドライブ(速いショット)勝負なら負けない。点数的に相手が引いてしまう場面でも怖くない」(嘉村)と絶対的な自信を持つ。

 ともに1990年2月生まれの九州男児。出会いは中3の全国大会後、熊本県の名門・八代東高で行われた練習会だった。地元中学No・1の園田と、佐賀県ダブルス1位として練習に訪れた嘉村が、試しにペアを組んだ瞬間からフィーリングが合った。前後衛が入れ替わるローテーションは最初からスムーズに回り、この時からドライブ勝負を志向。そろって同校に入学し、ソノカムが結成された。

 嘉村「名字を略してダブルスのペア名を呼ぶなとか言う人がいるんですけど、俺ら元々“ソノカム”って呼ばれてて。たぶんオグシオとかタカマツより先だと思う」
 園田「そこは譲れないっす」

 高3のインターハイでは3位。卒業後は園田が就職、嘉村は進学と進路は分かれたが、国体では熊本代表として即席ペアを組んでいた。一緒に練習をしなくとも息は合い、09年の新潟国体では準決勝で実業団No・1ペアを撃破。園田はその夜、宿舎の露天風呂で「もう俺、シングルスはいい。ダブルス一本でやりたい」と告げ、大学2年だった嘉村も「啓悟(園田)が自分の気持ちを伝えるなんて一度もなかった」と驚きながらも快諾。翌年に園田が所属チームの廃部によりトナミ運輸へ移籍、2年後には嘉村が入社し、富山の地でペア再結成となった。

 リオ五輪の1年前には解散危機もあった。成績が伸び悩み、選考レース開始直前の国際大会であっさり敗戦。嘉村はサブコートに園田を連れ出し、「本気で五輪を狙わないのなら新しいパートナーを見つけよう」と提案した。園田にもっと積極的に発言してほしい意図もあったが、「健士(嘉村)の気持ちが凄く分かった」という園田はその後も黙々とプレーを続け、強打だけでなく緩急を織り交ぜるなどレベルアップ。「啓悟はずっと変わらないのが凄い。自分の技術とかが足りなかったと思う」と振り返る嘉村も判断や駆け引きの質を上げ、ゲームメークの幅を広げた。

 国内3番手で臨んだリオ五輪選考レースでは五輪に出場した早川・遠藤組に歯が立たなかったが、「次はおまえたちだ」と後押しされ、3年間で世界トップレベルへと成長。今年は8月の世界選手権こそトナミ運輸の後輩ペアの保木・小林組に準々決勝で敗れたものの、9月の韓国オープンや今月の福州中国オープンで2位とポイントを積み重ね、東京五輪選考レースの世界ランキングは日本勢最上位の4位につける。

 嘉村「東京五輪でメダルを獲れる位置にいけるよう、一つ一つ全力でやりたい」
 園田「毎試合、2人で最後という意識を持ってやっている。誰よりも覚悟がある」

 25日からの全日本総合選手権(駒沢)を経て、12月には世界上位8組が戦うツアー・ファイナルズ(中国・広州)。熊本と富山で10年以上培った2人の力を、東京で発揮するための戦いに突入する。東京五輪の男子ダブルス決勝は8月1日。シングルスよりも早く、メダル獲得ならバドミントン日本男子史上初の快挙となる。

 ◆嘉村 健士(かむら・たけし)1990年(平2)2月14日生まれ、佐賀県出身の29歳。唐津一中―八代東高―早大―トナミ運輸。男子ダブルスで08、10年にインカレ制覇。全日本総合選手権は優勝3回。16年ワールド・スーパーシリーズ・ファイナルズ準優勝。ラーメンが大好物でインスタグラムも好評。1メートル69、64キロ。独身。

 ◆園田 啓悟(そのだ・けいご)1990年(平2)2月20日生まれ、熊本県出身の29歳。八代三中―八代東高―くまもと八代YKK・APクラブ―トナミ運輸。07年インターハイで団体準優勝、シングルス3位。10年全日本総合選手権シングルス3位。趣味はドライブ、キャンプ。1メートル69、71キロ。17年2月に薫夫人(29)と結婚。

 ◇トナミ運輸 90年2月創部。当時から県内には女子の強豪・三協アルミが存在し、自治体からの要望もあって結成された。リーマン・ショック時の危機を乗り越えて部を存続させ、これまでに舛田圭太や佐々木翔ら五輪選手を輩出。嘉村は「自分の生まれた日と創部が一緒。運命を感じている」と話し、園田は「富山に住んで10年なので、第二の故郷のようなもの。活躍して、熊本や富山にいいニュースを届けられれば」と抱負を述べた。

《シングルス枠争いも“トナミ対決”常山VS西本 桃田に次ぐ2人目へ》
 東京五輪の男子シングルス日本代表2枠のうち、エース桃田に次ぐ2人目を争うのが、トナミ運輸のチームメート、常山幹太(23)と西本拳太(25)だ。現時点では常山が選考レース世界ランクで日本勢2番手の11位と、15位で3番手の西本を一歩リードしている。

 常山は7月のジャパンオープンでリオ五輪金メダリスト諶竜(中国)を撃破。小技と駆け引きに定評があり、西本に「バドミントンIQは桃田より高いと思う。自分のできることを知っていて、土俵に引きずり込む」と言わしめる。一方、昨年のジャカルタ・アジア大会3位の西本は1メートル80の長身が武器。常山を「デカいし、守れる。あれぐらい身長があって、いい球が打てれば」とうらやましがらせる。チームの先輩と後輩で貴重な1枠を競う複雑な立場だが、「こっち(富山)に帰ってきても質の高い練習ができる」(常山)「いい意味で意識して競技力向上につながれば」(西本)と前向きに自身の試合に集中している。

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