陸上の日米国内選手権に見る人間模様 米女子400メートル障害は異次元のタイム
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【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】3勝35敗。どんな種類の戦績がおわかりだろうか?実はこれ、陸上の日本選手権(6月27~30日)と全米選手権(7月26~29日)の男女優勝記録を比較した場合の、日本から見た共通種目での勝敗。ただし日本の3勝のうちのひとつ「女子1万メートル」はまだ気温がそう高くない5月19日に大阪(当日の最高気温は20・4度)で行われているので、気温が30度近くに達していた全米選手権(アイオワ州デモイン)との比較は難しいかもしれない。
残った“2勝”の中身を見てみよう。男子1500メートルでは日本の優勝者、戸田雅稀(26)の3分39秒44が、米国の優勝者、クレイグ・イングルス(25)の3分44秒93よりも5秒以上、速かった。しかしこの種目での現役の米第一人者、ロペス・ロモング(34)はすでに5000メートルと1万メートルに転向しており(今大会では2冠達成)しており、世界レベルで戦える選手がほぼ不在だったことを考えると、戸田のタイムの方が良かったのも当然の結果だったかもしれない。
“日米対抗”で堂々の勝利?を収めたのは女子やり投げ。日本選手権1位の北口榛花(21=63メートル68)と2位森友佳(27=62メートル98)の記録は、ともに全米選手権を制したアリアナ・インス(30)の61メートル06を上回った。北口は今年になって64メートル36の日本新記録(今季世界10位)をマークしており、呂会会(28=中国)がマークしている今季世界1位との距離は3メートル47。まだ伸びしろがあるだけに、世界陸上(9月28日開幕=カタール・ドーハ)でのさらなる躍進を期待したいところだ。
日本選手権の男子100メートルと200メートル各決勝はサニブラウン・ハキーム(20)が10秒02と20秒35で優勝。このタイムをそのまま全米選手権の同種目決勝に合わせると、2位と3位相当になる。スプリント系の種目は世界的に層が厚いので米国だけと比べても全体像は見えてこないが、それでも彼の立ち位置はこれまで日本選手が経験したことのなかった高いレベルに達していることは事実だ。
さて全米選手権と比べたとき、日本が格差を痛感する種目もある。全米選手権の女子400メートル障害ではリオデジャネイロ五輪の金メダリスト、ダリラ・ムハマド(29)が52秒20で優勝。2003年8月8日にロシアのユリア・ペチョンキナがマークしていた従来の記録(52秒34)を16年ぶりに更新し、この大会では2年ぶり4回目の優勝を果たした。
ムハマドの優勝記録は、日本選手権の400メートルを制した青山聖佳(23)の53秒68より1秒48も速い。青山が仮に自己ベスト(52秒85)をマークしても、10台のハードルを越えてきたムハマドより先にフィニッシュすることはできない。世界選手権でムハマドはおそらく全種目を含めた“絶対女王”となりそうだが、日本にとっては、はるか彼方にいるような存在だ。
男子400メートルには2012年のロンドン・パラリンピックで2位となったブレイク・リーパー(29)が参加していた。決勝まで進出して5位。両脚の膝から下がない義足のランナーが、五輪を目指す選手たちと同じ舞台でレースをする姿は印象的だった。リーパーは2016年2月、コカインに陽性反応を示していたことが判明したために2年間の出場停止処分を科せられた過去があり(その後1年に短縮)、リオデジャネイロ・パラリンピックは代表に選ばれながら大会には参加できなかった。
おそらく東京は“人生のリベンジ”がかかる舞台。アルコール依存症も抱えており、ここに至るまでの道のりは決して平たんではなかった。全米選手権決勝の残り50メートルからは顔を左右に振り、歯をくいしばって懸命にスパート。陸上というスポーツでありながら、何かドラマを見ているかのような感覚にさせられるレースだった。
五輪で6つの金メダルを獲得しているアリソン・フェリックス(33)は全米選手権が1年1カ月ぶりのレースだった。昨年11月28日に長女キャムリンちゃんを出産したために競技生活を一時中断。ブランクがあったために唯一出場した400メートルの決勝では6位に終わった。
その母と子はすでに大きな“障害”を乗り越えている。キャムリンちゃんは母体の中で心臓の動きが低下。緊急に治療をする必要が出てきたために、フェリックスは予定日より8週間も早く帝王切開で出産することになった。体重は1559グラム。そのピンチを乗り越えての全米選手権出場だった。タイムは自己ベスト(49秒26)に遠く及ばない51秒94。それでも会場に連れてきていたキャムリンちゃんを抱き上げると笑顔であふれていた。
「今はこんなもの。でもいずれ自分のタイムが出せる」。来年の全米選手権で上位に入れば5度目の五輪。すこし腹部にたるみがあったのは仕方のないところだが、リーパー同様、彼女にも東京を自分の人生の1ページに書き加えようとしている熱意が見え隠れしていた。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは4時間16分。今年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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