新国際大会めぐり揺れるラグビー界 日本が直面する“難しい選択”
さもありなん、という思いだ。
3月1日、主に欧州でプロ活動する太平洋地域出身の選手約600人で構成される選手会が、9月に開幕するラグビーW杯日本大会のボイコットを検討しているという衝撃のニュースが流れた。この選手会はフィジー、サモア、トンガの主力選手で構成されている。3カ国はいずれもW杯出場が決まっており、特にサモアは日本と同じ1次リーグA組。万が一、現実になれば日本代表や大会への影響は計り知れない。
これを受けて翌2日、国際ラグビー選手会に所属する太平洋地域の選手会が「選手はW杯を楽しみにしている。ボイコットの恐れは現時点ではない」とツイッターで反応。すぐさま火消しに走った格好だが、状況は混とんとしている。国際統括団体ワールドラグビー(WR)は先週末に公式サイトのデザインリニューアルを予定していたというが、これを延期にするほど対応に追われている状況だという。
事の発端はWRが2020年にも創設しようとしている新国際大会の構想から、太平洋地域の各国が外されたことにある。昨年、海外メディアで報じられた構想ではティア1の10カ国とフィジー、そして日本の12カ国で構成し、W杯イヤーを除く年に総当たりで対戦するリーグを開催するというもの。ところが最近の報道では、フィジーに替わって米国が参加国となり、当面入れ替えも行わないという構想だった。世界ランキング9位のフィジーが同13位の米国にすり替わったのは、巨大な市場を当て込んだWRの皮算用そのものだろう。公式な決定事項ではないとはいえ、反発は当然の反応だったと言える。
例えば昨年、世界ランキング1位のニュージーランド代表が行ったテストマッチは14試合。スーパーラグビーなどクラブレベルでの活動や選手の休養を勘案すれば、テストマッチの数としては上限に近い。もし新国際大会が実施されれば、それだけで11試合を消化。ニュージーランドであれば伝統の定期戦「ブレディスロー杯」の対戦相手であるオーストラリアと年間1試合のみというのは考えられず、さらに試合数は積み上がる。その結果、太平洋地域各国とのテストマッチを組むことは不可能に近い。一方で強豪国との対戦機会が失われた国の競技力が落ちるのは必至。世界のラグビー勢力図は、さらに二極化が進むと考えられる。
今回の騒動が日本ラグビー界に与える影響は少なくない。“大船”に誘ってもらっている日本だが、構想が白紙となれば、毎年10試合もティア1とテストマッチを行うという絶好の強化機会が失われる。加えてスーパーラグビー(SR)の日本チーム、サンウルブズの参戦契約は来季まで。日本協会が2021年以降のSR参戦に消極姿勢を示してきた中で、今週末には主催団体であるSANZAARの理事会が開かれ、21年以降のリーグ構想が固まる可能性がある。サンウルブズを失い、新国際大会も実施されない場合、日本代表を取り巻く環境は2015年以前に退化する。新国際大会参戦を目論んでSR撤退を決め込んだとすれば、失政と批判されて当然の事態だろう。
選手にのし掛かる負担はさておき、日本ラグビー界の発展のためには、新国際大会への参戦はメリットが大きい。だがラグビーそのものの発展を考えた時、ただでさえ世界トップレベルの競争力を持つ国の数が限られているスポーツが、さらにニッチなものになるのではないかという疑念はぬぐえない。日本協会の幹部も出席するWRの会議は、来週ダブリンで開かれる。押すのか、はたまた引くのか、難しい選択を迫られているのは間違いない。(記者コラム・阿部 令)
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