日本で16年ぶりに開催されるNBAの一戦 私の人生に絡みつく記憶と思い出
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【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1994年11月3日。横浜アリーナで私はNBAトレイルブレイザーズの選手を取材していた。3回目を迎えていたNBAの日本での開幕戦。前日の練習を終え、記録席の机の上に座って新聞を読んでいたのがクライド・ドレクスラー(当時32歳)だった。
1992年のバルセロナ五輪に「ドリームチーム」の一員として出場。来日していた選手の中では最も注目を集めた“スーパースター”だった。
他の記者たちの質問が終わるのを私は待っていた。そんなことを最初に尋ねるとたちまち冷たい視線を浴びるのはわかっていたからだ。
そしてついにそのチャンスは訪れた。新聞を手にしたままのドレクスラーに小さな声でそっと質問…。「来日は2度目ですよね。12年前を覚えていますか?あなたはヒューストン大の選手で日本でバージニア大と試合をしましたよね。そのとき宿舎のホテルにほど近い大学の小さな体育館で練習をしませんでしたか?そしてそこにいた日本の大学生たちと試合をしたのですが覚えていますか?」
予期せぬ質問だったのだろう。ドレクスラーの目はちょっとだけ宙を泳いだ。そして数秒が経過。次第に表情に笑みが戻ってくるのがわかった。
「ああ、思い出したよ。そうだったね。で、君はそこにいたの?」
「ええ、シュート練習ではあなたのボール拾いでしたし、試合では審判をやってました」
まさかこんな日がやってくるとは思わなかったので、私自身としては実に印象に残る“取材日”となった。
ドレクスラーはこのシーズンの途中となった1995年2月14日にロケッツへトレードされる。その時点でトレイルブレイザーズは25勝20敗。本人が移籍を志願していたことと、優勝できる陣容ではないと判断した球団側の思惑が一致して商談が成立したのだった。
私のNBAファイナル初取材は1995年。ロケッツがマジックを4戦全勝で下して連覇を達成したシリーズだった。そしてその歓喜する王者の中に再びドレクスラーの姿があった。しかもMVPとなったのは同じヒューストン大出身で、私の母校の体育館で試合をしたときにはブロックショットしかできなかったアキーム・オラジュワン。あのとき日本にやってきた2人の大学生がNBAで“合体”し、優勝を飾る場面を目撃している自分自身の運命が不思議だった。とくにロケッツのファンでもなかったが、このチームはなぜか私の記者人生に何度も絡んでくる。その原因が何なのかはいまだによくわからない。
2019年3月5日。日本では16年ぶりとなるNBAの試合開催が発表された。すべて公式戦だった過去6回とは違って、今度は開幕前のプレシーズン・ゲームだが、会見場でプレス・リリースを手渡された私は驚いてしまった。
10月8日と10日、東京五輪のバスケットボール競技会場となる「さいたまスーパーアリーナ」で試合を行うのはラプターズとロケッツ。そう、またロケッツなのだ。
おそらくその場にいた記者のほとんどは昨季のシーズンMVPでもあるロケッツのジェームズ・ハーデン(29)の姿を思い浮かべたはずだが、私は37年前、小さな体育館でお世辞にもうまいとは言えなかったジャンプ・シュートを放っていたドレクスラーと、まだバスケ歴1年半で基礎が何一つ身についていなかったオラジュワンの姿が脳裏をよぎった。
プレシーズン・ゲームなので主力の出場時間は少ないだろう。しかしよく見ておいてほしい。もしかしたらベンチ枠を争う当落線上のギリギリのところにいる選手が未来のエースになるかもしれないからだ。
運よくドレクスラーとオラジュワンの「化ける前」を見てしまった私には、記者となってから、ひとつだけ考え方が変わった部分がある。
「素質だけで開花する選手などいない。だから天才など存在しない」
日本で行われたNBAの公式戦は過去12試合。ティンバーウルブスの一員として1999年に来日し、その後セルティクスでファイナル制覇を達成するケビン・ガーネットは人生で初めての地下鉄を日本で経験し、およそ3人分の座席を1人で占領してご満悦だった。当時23歳。しかし翌日のキングスとの初戦で負けたとき、彼は車内で見せた笑みを体の中に閉じ込めた。
「負けるのはどんな試合でも絶対に嫌だ」
私のメモ帳にはそんな彼のコメントが書き込まれていた。記者たちの質問にひと通り答えたあとの本音。ロッカールームの壁をゴツンと叩いていたことを記憶している。その負けず嫌いな性格があったからこそ、その後のNBA人生で花開いたのだと思う。
1982年12月。当時のNCAAトーナメント(全米大学選手権)の決勝まで進出したヒューストン大と、ほぼ日本の草の根レベルにいた私たちのチームとの間で行われた日本バスケ史上最大のミスマッチのスコアは、15分のランニングタイムで50―15。「善戦でしたよね」。そう告げたとき、新聞を放り投げて笑っていたドレクスラーの姿は、たぶん人生の最後まで“消去”されない大切な記憶だ。あの時、コートにいた仲間の2人はすでに鬼籍に入ってしまったが、またロケッツがやって来ると知ったら、どう感じるだろうか?
NBAと日本。ロケッツと私。時の流れの速さを痛感する年齢になったが、もう少しだけあの独特の空気感を味わってみようと思う。さて今年の10月にはどんな出会いが待っているのだろうか…。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは4時間16分。今年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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