五代目の挑戦から目が離せない

[ 2023年6月16日 12:17 ]

桂三木助の11月公演のチラシ
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】桂三木助(39)の落語会に足を運んだ。6月7日の東京・千代田区立内幸町ホール。「五代目の挑戦」と題した独演会の第8弾。締めの演目が「居残り佐平次」だからではないが、幕が下りきっても立ち去りがたい思いを抱いた。

 冒頭から楽しい演出だ。「お見立て」や「野ざらし」「死神」などをアニメーションで表現したオープニング映像がスクリーンに映し出されて幕開けを彩った。試行錯誤を重ねながら、質も上がって少しずつ良い物が出来つつあるようだ。高座への入口としてさらなる進化を期待したい。

 開口一番は前座の金原亭駒平(32)で、「寿限無」を披露。2018年6月に金原亭世之介(65)に入門する前は劇団に所属していた人。舞台経験も豊富とあって度胸も満点。なにより声が良くて聞きやすいのが何よりだ。

 続いて高座に上がった三木助は「たがや」をかけた。江戸の両国橋の上で起こる武士と職人のトラブルを描いたおなじみの噺。江戸の二大花火の屋号「鍵屋」「玉屋」の説明も丁寧で、暑い夏に今度は寄席でも聞いてみたい。

 中入り後は異例の口上だ。異例と書いたのは、金原亭杏寿(34)の二つ目昇進を祝ってのものだったから。客席から見て、杏寿を真ん中に右に三木助、左に駒平。普通、口上は落語家が真打に昇進した際に所属団体の幹部たちがそろって行うものだが、三木助自身、二つ目になった時に立川談志の意を受けた立川志の輔(69)にやってもらった体験談を披露。そんな前例にならって杏寿の前途をにぎやかに祝った。

 沖縄初の女流落語家。タレント活動を経て、17年に金原亭世之介に入門し、今年2月に二つ目に昇進。口上の後に披露したのは「1枚、2枚…」でおなじみの「お菊の皿」だった。三木助も話していたが、彼女も声がいい。しゃべりも聞きやすくてルックスも映える。ファン急増中というのもうなづける。

 そして三木助が2席目に選んだのが「居残り佐平次」だ。川島雄三監督の「幕末太陽傳」の題材にもなった大ネタ。したたかで、計算高く、それでも憎めない。映画のフランキー堺も良かったが、三木助が構築した佐平次の人物描写も見事だった。口調が古今亭志ん朝をほうふつとさせて耳に心地良かった。師匠の十一代目金原亭馬生(75)の最初の師匠が十代目馬生。五代目古今亭志ん生の長男で、志ん朝の兄貴だ。古今亭の血がこんなところに現れるのかと、ひとり静かにうなっていた。

 三代目三木助が祖父で、四代目は叔父に当たる。1961年に58歳で亡くなった三代目は「芝浜」が代名詞だが、「へっつい幽霊」「三井の大黒」「火事息子」「ねずみ」「長短」なども良かった。映像が残ってないのが残念だ。

 さて、五代目三木助は2003年に十一代目馬生に入門して駒春。06年の二つ目昇進とともに祖父も名乗った三木男に改名。そして17年の真打昇進とともに五代目を襲名した。大名跡のプレッシャーは大変なものがあるはずだが、祖父譲りの粋でいなせなところも持ち合わせて魅力十分。11月15日には三味線漫談の林家あずみと杏寿をゲストに迎えて「五代目の挑戦 Vol9」を開催する。来年3月に不惑を迎えるが、落語の新しい可能性を追及し続ける三木助を追っかけていきたい。

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