渡辺王将 掛川不敗神話ついえる、壮絶シーソーゲーム…力尽きた

[ 2022年1月11日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将第1局第2日 ( 2022年1月10日    静岡県掛川市 掛川城二の丸茶室 )

<王将戦第1局第2日>指し手を進め頭を抱える渡辺王将
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 「掛川不敗神話」がついえた。静岡県掛川市で行われた過去6回の王将戦第1局で全勝を誇っていた渡辺明王将(37)=名人、棋王含め3冠=が、ついに「落城」。最終盤までもつれる展開で、若武者・藤井相手に最後の最後で力尽きた。

 泣く子も黙る「掛川マイスター」が、全てを悟ったように天井を見上げていた。渡辺は手拭いを口に当て、苦しげに首をかしげる。ポットから湯飲みに緑茶を注ぎ、ぐいと飲み干してから敗戦を認めた。「終盤にチャンスがあるかなと指していた。でも最後は分からなかった…」

 王将戦史上に残るラストのせめぎ合いは、あたかも指運選手権。1手ごとに勝利の女神が盤上を交錯する。壮絶なラストの舞台装置は、70手目で8八に歩を垂らした場面から始まった。昼食休憩時には「攻め合いになって、カウンターを狙う展開にしたい」と不利を自覚していた。91手目の▲4四香で「金を捨てて攻めていったのがよくなかったのか」。リードを奪われた側が逆転するには相手の失着を待つしかない。いわゆる「怪しい攻め手」の敢行だ。8八歩はその役目を存分に果たし、じわじわと立ち位置を入れ替える。AIすら判定に戸惑う究極の異次元ランデブーに引きずり込み、藤井の軽微な緩手を数度にわたって引きずり出す。

 チャンスボールは確実に来た。だがそれを芯で捉える余裕は1分将棋の中で皆無だった。「最後は桂が跳ねる手(131手目▲4五桂)が見えていませんでした」。同銀と応じて自王に詰みが発生。悔しすぎる読み抜けに何度も頭を抱えた。

 昨年6、7月の棋聖戦5番勝負で藤井に3連敗。「自分のコンディションが良かったのに3連敗するとは思わなかった」と振り返るものの、それが「ショック」だったとは今でも決して口にしない。自身初のタイトル戦ストレート負けを喫する屈辱を味わいながらも「棋聖戦の第2、3局は自分にも勝てる場面があった。そこをベースに準備してきた」と研究を重ねてきた。その成果は確かにあった。この日の激戦はまさに紙一重。記録上は1敗でも、内容は「0・9勝」に値するほど藤井を悩ませた事実は見逃せない。

 次局の高槻は得意の先手で迎える。黒星発進でも、追い込まれたわけではない。「(シリーズは)始まったばかり。また、やっていきたい」。感想戦では敗局を明朗に振り返るいつもの渡辺の姿があった。

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