藤井竜王「やってみようと」温めていた“妙手”8六歩…1時間の休憩直前でも駆け引きなし

[ 2022年1月10日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第1局第1日 ( 2022年1月9日    静岡県掛川市・掛川城二の丸茶室 )

第71期王将戦第1局第1日の第1図(上)と指了図
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 開幕した第71期ALSOK杯王将戦7番勝負は、昼食休憩の7分前、藤井聡太竜王に挑発的な一手が飛び出した。41手目▲8六歩。渡辺明王将が1時間31分など、その対応に両者が長考を重ね、午後は5手しか進まなかった。局面は佳境を迎えている。

 敵軍の制空権を、歩という一番安い駒で領空侵犯した。立会人の森内九段は「ビックリした。この手筋は見たことがありません」と嘆息した。

 ▲8七金、▲7八王とすれば将来△6五桂と7七銀を狙われても▲6八銀と退路を設けられる。自王の懐を広げる現代調の選択だが、突きだした歩の先には渡辺飛車という大砲。銀桂歩も盤上に控え、さらに角も渡辺の手駒にある。それら攻め駒を王頭へ結集されても攻めは成立しません、との藤井からの無言のメッセージだった。

 「相掛かりでは部分的に出る手。やってみようと思いました」。11分の考慮で決行した藤井は封じ手後、以前からあった着想だったと明かした。

 しかも刺激的なのは着手の時刻だ。昼食休憩直前に指したことで、渡辺にその1時間、応手を探る時間を与えた。もし公式記録上の7分後、つまり昼食休憩明けに指していたら、同じ時間考慮に沈んだとして、渡辺の持ち時間をさらに1時間削れたはずだ。つまり7分を犠牲に1時間得する選択もあり得たのに、放棄した。「戦略を考えず、やりたいことをやった。駆け引きがありません」と森内。盤外戦術にとらわれず、局面と正対する証と受け取った。

 午前9時、快晴にして最低気温1度。異物を排した、清浄の和室にたたずむその姿があった。振り駒の結果、先手は藤井に。2手後、関係者が退出する最中、3手目▲2五歩を平然と指した。左右、背後を行く人々への意識がない。「寒さにも気をつけていましたが、やると気にならなかった」。7度目で初の冬季タイトル戦を含め、高い集中力で盤上没我した。デビュー以来大舞台を重ねた19歳にスイッチは入った。(筒崎 嘉一)

 ≪封じ手は?≫ ▼立会人・森内俊之九段 ▲5六角。左右ににらみを利かせ、▲3五歩と▲7五歩の両狙い。

 ▼副立会人・神谷広志八段 ▲3五歩。△同歩、▲同銀と右銀を攻めに活用したい。

 ▼記録係・福田晴紀三段 ▲5六角。直前に△4四歩と突いたので▲2五桂に△4四銀とは逃げられない。封じ手で長考したので決行するのでは?

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