藤井七段、「受けの名手」木村王位に浴びせ続けた猛攻…深浦九段「意表を突かれる一局でした」

[ 2020年7月3日 06:15 ]

王位戦七番勝負の第1局に勝利し記者会見に臨んだ藤井聡太七段(撮影・後藤 大輝)
Photo By スポニチ

 第61期王位戦7番勝負第1局で完勝とも言うべき指し回しを見せた藤井聡太七段(17)。史上最年少棋士が目指す王位を3期連続して保持した経験を持つ深浦康市九段(48)が、熱い開幕局を熱く解説した。(聞き手・我満 晴朗)

 今回の対局をボクシングに例えると、藤井七段はやりたいパンチを全て木村王位に打ち込んだ感があります。ジャブにストレート、フックにアッパー。角換わりの駒組みが終了した途端に4筋の歩を突いて仕掛け、結局最後まで受けの手を指すことがなかった。第1ラウンドから猛攻してきたと言ってもいい。木村さんにすると、こんなに攻めてくるとは思ってもいなかったのでしょう。

 一方で木村さんも受けの名手ですから随所にワナを仕掛けました。一例を挙げるなら、と金2枚で自王が左辺に追い詰められた瞬間に放った一段目の桂がそれです。もし藤井さんが金を打ち込んで決めにかかった場合、その金を取って受けに使うという絶妙手がある。すると遊んでいた馬が一気に活用できるので、あっという間に逆転です。藤井さんはそのトラップに気づき、1時間ほど考えてから正着(最善手)の端歩を突きました。この他にもいくつか潜んでいたワナを巧みにかいくぐっていたのです。

 普通の棋士ならば、終盤に強い木村さん相手に序盤から仕掛けるのはリスクが大き過ぎて避けるもの。でも、この日の藤井さんは臆せずパンチを繰り出した。私自身も意表を突かれる一局でした。

 6月8日の棋聖戦5番勝負第1局では渡辺棋聖の最後の猛攻をしのいで勝つという「受け」を見せた藤井さんなのですが、今回は「攻め」も存分に展開しました。この両方を高いレベルで持っている。今までの棋士にないタイプだと思います。

 新型コロナウイルスの影響で対局が原則自粛中だった4月末、私はネット内の企画で藤井さんと対戦し、敗れてしまいました。公式戦で最後に指したのが2年前。当時と比べて戦型の一つ一つが洗練されてきたという印象です。四段の頃は大味なところが正直あったのですが、当時に比べミスがなくなり、鋭さが増している。対局中のAI評価値を見ると、わずかなリードを奪ったらそのまま差を広げて勝ってしまう。洗練されている、としか言いようがありません。今回もネットで観戦していて「一つ一つが賢い」と痛感しました。

 さて今後の7番勝負について。木村さんは対局が深まれば深まるほど力を発揮するタイプなのですが、今回は藤井さんにとって穴がない先勝。(奪取が)期待できるのではと感じています。

 《過去2局は五分》深浦VS藤井は過去に2局あり、1勝1敗のイーブンだ。初対局は2017年12月23日の叡王戦本戦トーナメント1回戦で、先手の藤井が中盤まで優位をキープしたが、深浦は一瞬の緩手を見逃さず逆襲に転じ、逆転勝ち。翌18年6月22日の王座戦本戦トーナメント準々決勝では後手の藤井が最終盤、深浦の王を長手数の詰みに追い込んで快勝した。

 ◆深浦 康市(ふかうら・こういち)1972年(昭47)2月14日生まれ、長崎県佐世保市出身の48歳。91年に四段昇段。96年に第37期王位戦でタイトル初挑戦。2007年、第48期王位戦で初タイトル獲得以降、3連覇を果たす。タイトル戦出場8回、タイトル保持は王位の3期、棋戦優勝は9回。絶対的不利な状況からでも驚異的に粘る棋風の持ち主。ファンからはAIと対峙(たいじ)する「地球代表」と呼ばれている。

続きを表示

この記事のフォト

2020年7月3日のニュース