これぞギリアムの真骨頂!やっぱこの人すごいわ!

[ 2019年12月21日 08:00 ]

「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」の一場面。右から、自らをドン・キホーテと信じ込んでいる老人(ジョナサン・プライス)と若手映画監督(アダム・ドライバー)(c)2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mato a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】「未来世紀ブラジル」という映画がある。日本では1986年に公開されている。ビデオになってからも何度か見た記憶があり、それくらいお気に入りの1本だ。

 英国のコメディー集団モンティ・パイソンのメンバーで、アニメーターとしても知られるテリー・ギリアム(79)がメガホンを取った。20世紀の某国。情報省がテロの容疑者「タトル」を「バトル」と打ち間違えてしまうところからストーリーが転がっていく異色のSF映画。中央政府に統制された人間社会から逃れようともがく主人公たちの姿が鮮烈な映像美に包まれて描かれた。「タトル」が「バトル」…。落語的な仕掛けにすっかり胸をつかまれた。

 その他にも「バンデッドQ」(81年)「バロン」(88年)「フィッシャー・キング」(91年)などを世に放ちってきたテリー・ギリアム。そんな鬼才が構想から30年の月日を経て、執念で完成にこぎつけたのが「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」だ。18年の第71回カンヌ国際映画祭のクロージング作品。いよいよ年明け1月24日に日本に上陸する。

 スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスのおなじみの小説「ドン・キホーテ」の映画化に敢然と挑んだ意欲作。2000年にクランクインしたが、自然災害や主人公のドン・キホーテ役が腰痛を訴えたり、病に倒れたりとつまずきの連続。さらには資金枯渇と、これまで9回もとん挫を繰り返してきたというから、その製作過程は聞くも涙の物語だ。

 それでもあきらめなかったのだからギリアム監督には脱帽するほかない。試写会でお先に拝見した。自らをドン・キホーテと信じる老人と、仕事への情熱を失った若手監督の奇想天外な冒険の旅がスケール豊かに描かれている。「最後は夢をあきらめない者が勝つ」という監督自身の勝利宣言が聞こえてきそうだ。映像の若々しさには舌を巻くばかり。とても80歳を目前にした人の感性ではない。

 俳優陣も芸達者がそろった。自らをドン・キホーテと信じ、夢に生きる老人にギリアム作品には欠かせないジョナサン・プライス(72)。そして共に旅をする若手監督に、マーチン・スコセッシ監督(77)の「沈黙―サイレンス―」(16年)や「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(15年)、新作「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」(19年)などに出演しているアダム・ドライバー(36)が扮し、鬼才の世界で思いっきり遊んでいる。

 ほかにも08年公開の「007 慰めの報酬」でボンドガールを務めたオルガ・キュリレンコ(40)、新進のジョアナ・リベイロ(27)という美しい女優陣、さらにラース・フォン・トリアー監督(63)の「奇跡の海」(96年)や「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(06年)などで存在感を示してきたベテランのステラン・スカルスガルド(68)らが脇を固めている。

 ちまちましていない。実に堂々としたドンキ・ホーテ・デ・ラ・マンチャ(ラ・マンチャの男)に脱帽。風格があって映画への愛にあふれた巨編、そんな作品に久しぶりに出合えた喜びをかみしめている。

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2019年12月21日のニュース