なぜ武田真治は鍛えるのか?「あの時やっていたら、役者としての評価は違ったかもしれない」

[ 2019年4月16日 10:00 ]

これまでのトレーニングについて話をする武田真治(撮影・小海途 良幹)
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 【夢中論】俳優の武田真治(46)の鍛え抜かれた体には「雑に生きない」というメッセージが詰まっている。昨年、NHK「みんなで筋肉体操」でシュールに筋トレをする姿を披露し、大みそかの紅白歌合戦にもタンクトップを着て出演。デビュー時は中性的でフェミニンな俳優として人気を集め、その印象は真逆だった。どのようにして変化していったのか。そこには紆余(うよ)曲折の半生があった。

 ガシャン、ガシャンと乾いた金属音が響く。自宅のトレーニングルームで、武田はベンチプレスに集中していた。30キロを10回持ち上げると、重りを追加。50キロ、70キロ、最大の90キロと同様に10回ずつ続けていく。BGMのない静かな空間。最後に再び30キロに戻して100回。天井を向いた端正な顔に汗が噴き出し、上気していく。週に2、3回、仕事前の朝に行うルーティンだ。

 「15年ぐらい続けてます。昔は“男は自分の体重を持ち上げて当たり前、2倍を持てたら力持ち”みたいな通説があったけど、今は重量より回数。100回やれば“もういいや”と思える。重量で負荷をかけすぎて体を痛めるのはハイリスク、ローリターン。ケガをしないやり方です」

 体脂肪率6%の体はこうして保たれている。食事制限はしない。「努力は習慣になるけど、我慢は限界がある」。これが持論だ。

 昨年8月、NHKの異色体操番組「みんなで筋肉体操」に出演した。タンクトップに短パンでさまざまなトレーニング法を実践して紹介。天然ボケのユニークなキャラクターと相まって、筋肉タレントとしてブレークした。「アラフィフと言われる年齢の僕がやることで同世代のお父さんにも、若い人にも刺激になるかなと思った」

 20代の時、既に40代だった郷ひろみ(63)の体に驚かされたことがある。「雑誌に肉体が載っていて“40歳でこの体?カッコいい!”と思ったのを凄く覚えている。だから、僕も若い人に影響を与えられるかもしれない。人生ってどういうタイミングで、どんな形で支持を得られるか分からない。だから、何事も諦めないでというメッセージになればと思ってます」

 昨年大みそかの紅白歌合戦には、天童よしみ(64)のステージにゲストで登場。筋肉体操とサックスを演奏する活躍だった。「『めちゃ×2イケてるッ!』が終わった年に、今度は国民的番組で笑っていただけた。僕がやってきた筋トレにサックス、シュールなものが凝縮されていた。人生の第何章かのスタートになったと思う」。手応えを実感した。

 体を鍛え始めたのは90年代半ば。「食いしばる力が強すぎて、顎(がく)関節症になったんですよ。片頭痛もあるし、食事も喉を通らない。やせた体が“ユニセックスな服を着た男の子”みたいに扱われて。負のスパイラルでした」。凝り固まった体をほぐし、筋力をつけることが必要となり、まずは勧められた縄跳びを始めた。

 その後、故忌野清志郎さんと出会った。2000年にバンド「ラフィータフィー」に参加するとともに、一緒に自転車に乗った。一番遠くまで行ったのは東京の日本橋から鹿児島までの1422キロ。「10日で行くから1日150キロ。隊列を崩さないように必死だった。覚えてる景色は前の人のふくらはぎだけ。でも全身を使うので体がほぐれたんです」。

 ジョギングやボクシングにも挑戦し、ベンチプレスは30歳の頃から始めた。30代半ばに110キロを持ち上げるまでになったが、負荷のかけ過ぎで、今度は頸椎(けいつい)が真っすぐになってしまう「ストレートネック」になった。それで勧められたのが、現在のトレーニング法だ。

 今も鍛錬を続けるのはなぜか。「へとへとになって眠ることって、とても人生を大事にしてると実感できる。人生を雑に扱って、顎関節症で食べるのもままならなかったのは人間らしい生活とは言えなかった。あの時にキャンセルしてしまった仕事や、応えられなかった期待とか、今でも思い返すんですよ」。

 特に思い出すのは蜷川幸雄さん演出の舞台「身毒丸」だ。96年に主演し、作品は高い評価を受けた。だが、翌97年のロンドンでの再演には体調面の問題で参加できなかった。「あの時やっていたら、役者としての評価は違ったかもしれない」と後悔の念は消えない。

 一方、そのために主演俳優が急募され、選ばれたのが藤原竜也(36)。「これはなるべくしてなった。演劇界の宝を生んだぐらいに思ってますよ」。後輩の活躍を心から喜んでいる。

 さまざまな巡り合わせや時の運を持っている男かもしれない。ただ、努力は欠かさなかった。火曜と水曜のめちゃイケの収録日に呼ばれなかった時は自分を追い込んだ。「呼ばれなかった時間を自己鍛錬に使ってた。いつか何かに還元できるかもしれないから。2000年から5、6年は、週に2、3回はハーフマラソンの距離を走ってたんです」。

 毎日を精いっぱい生きる。これが武田真治の生き方だ。

 ≪サックス奏者志しコンテスト≫89年に「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し芸能界入りして30年になる。「審査員に秋元康さんがいらっしゃったんですよ。でも僕、奇跡のNOプロデュース。一度もプロデュースしていただいたことがないんです。秋元さんはどう思ってるのかな」と笑いながら振り返る。コンテストを受けたのは、サックス奏者としての足がかりをつかむためだった。テレビ番組で披露することも多いが、ライブも行っている。今年は6月7日にビルボードライブ大阪、同22日にブルーノート名古屋などで予定している。オリジナルの曲を中心に、カバー曲も演奏する予定だ。「一流のミュージシャンと演奏できるぜいたくな時間」と笑顔で話した。

 ◆武田 真治(たけだ・しんじ)1972年(昭47)12月18日生まれ、札幌市出身の46歳。89年に第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞し、芸能界入り。99年に大島渚監督「御法度」で沖田総司役を演じ、第42回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞した。出演映画「Diner ダイナー」が7月5日公開。1メートル65。血液型AB。

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