枝葉末節ですが

[ 2018年5月3日 09:30 ]

女性通訳と言葉を確認する日本代表のハリルホジッチ前監督
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】「私は少なからずナイフだったが、後悔はしていない」。4月27日の記者会見でバヒド・ハリルホジッチ前監督が残した印象的なコメントがこれだ。

 ナイフと言っても、リンゴの皮をむく際に役立つ例の調理用具のことではない。フランス語で「naif」、いわゆる「ナイーブ」だ。日本では一般的に「繊細かつ傷つきやすい状態」を指すが、本来の意味は「お人よしの」「ばか正直な」といったニュアンスが濃いのだとか。1987年に購入した仏和辞典にそう書いてあった。30年経過した現在も特に意味は変わってないと思う。

 会見ではこの部分、「私自身ナイーブ、つまり物事を知らないところはあったかもしれませんが…」と訳されていた。さすがプロの通訳さん。「ナイーブ」だけをそのまま使用していたら、「私はウブだ」というとらえ方をされてしまうだろう。真意は微妙に違っており、前代表監督としてはあくまで「ピッチ外の政治的な権謀術数などに興味のない人間」を強調したかったと推測する。時の権力者にこびへつらって公文書を書き換えちゃう、そのへんのエリート官僚とは違うのですよ、とか。通訳さんの「つまり」以下の、それこそ繊細なフォローがあって、ようやく文意が通ったと感じた。言葉のプロはやはり違う。

 もっともこの通訳さん、「私は銀座でパレードして日本を去りたかった」のくだりは(多分時間の関係で)スルーしていた。この時のハリルホジッチ氏は「なぜ訳さないのか?」という、けげんなな顔つきだったのが面白い。実はこの2日後、成田空港から帰国する際にも同様のコメントを残している。銀座パレードに対するすさまじいまでの執念はひしひしと感じた。

 そういえば、突然思い出した。今会見のため来日した時、怒りの表情で「彼ら(日本協会)は私をmerdeのごとく取り扱った」と言い放っていたっけ。merde(メルド)は英語ならshit、日本語に直すと………う〜む…格調高いこのコラムで強いて表現するなら…「固形排せつ物」のこと。ありていに言えば「大便」ね……。

 で、この一文、訳文は「私をうんざりするような状態に追いやって…」だった。なんとも奥ゆかしい、トレビアンな翻訳ではないか。恒常的なボキャブラリー不足に悩む筆者に多大なヒントを与えていただいたハリル氏及び通訳の皆さん、お疲れさまでした。(専門委員)

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2018年5月3日のニュース