【新春特別対談】侍・栗山監督「絶対に勝つ」繰り返すだけ 松坂氏、大谷は投打「両方で出てほしい」
3月8日開幕の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、世界一奪還に燃える侍ジャパンの栗山英樹監督(61)と、連覇を成し遂げた06、09年大会でMVPに輝いた松坂大輔氏(42=本紙評論家)の対談が実現した。栗山監督から松坂氏に「逆取材」するシーンもあり、14年ぶりの世界一へ向けた熱いトークで盛り上がった。(取材・構成 秋村 誠人、鈴木 勝巳)
栗山(以下、栗) 明けましておめでとうございます。今日はプレーヤーにしか分からないことをぜひ松坂さんに聞きたくて。メジャー組の合流時期なんですが。
松坂(以下、松) 09年、自分は(侍ジャパンの直前合宿の前に)西武キャンプに第2クールから参加しました。チームとしてはメジャー組に最初からいてほしいですよね?
栗 僕は第1ラウンドから計算に入れていきたいと思っていて。
松 チームで勝利に向かっていくことを考えたら、共有する時間が長いに越したことはないと思います。
栗 そうですね。
松 自分は栗山監督が、出場を表明した大谷選手をどう使うイメージを持っているのか気になります。
栗 本人が先発なのか、打つのを中心に短いイニングでいきたいのか。ここは話そうと思っています。
松 先発の数をそろえられたら、後ろで使ってみるのも面白いかも…。ただ3月の頭に投げる方と打つ方、両方間に合うのか。特に投げる方はナーバスになっていると思います。
栗 どっちが答えか誰にも分からない。結果が出る方。ケガせず頑張ったら良い答えかなと思うんですけど。
松 無理はしてほしくないですけど大谷選手が両方いけます、という意思表示があるなら両方で出てほしい。
栗 見たいですね。確かにもう1人、絶対的に球の強い投手がリリーフ陣に必要、などいろいろと考えます。
松 例えば千賀投手。
栗 メジャー1年目のキャンプは凄く大変でしょう。でも千賀投手は米国での準決勝、決勝の2試合での入れ替えも考えていて。
松 いいですね、そのオプション。チームが許してくれれば。
栗 本人は凄くジャパンに思い入れがある。メジャーもやるけど日本も、という思いが凄く伝わったんで。
松 もう、すぐに宮崎合宿。大谷選手らメジャー組の合流は?
栗 やると決めたら、同じ時間を過ごした方がいいですよね。
松 イチローさんが合宿に来た時、存在感の大きさに最初、若い選手は一歩引いてしまって…。今回なら大谷選手の方から寄っていって、みんなが話している輪に入る。大谷選手がいることにみんなが早く慣れる。意外と大事かと思います。
栗 松坂さんは打順も考えてくれました。4番は鈴木選手。※(1)二 山田哲人(2)DH 大谷翔平(3)左 吉田正尚(4)右 鈴木誠也(5)三 村上宗隆(6)中 柳田悠岐(7)一 牧秀悟(8)捕 森友哉(9)遊 源田壮亮投 投手 ダルビッシュ有
松 自分は彼が真ん中にいてくれた方が、村上選手もシーズン同様に打てるのではないかと…。感覚ですが。
栗 誰が4番を打ってもいいような、4番打者がいっぱいいる。ただ(外国人の)左の変則投手を左打者が苦手にする可能性もある。右でちゃんと打てる人が真ん中にいると凄く安定するんですよ。
松 考えるのは楽しいですけれど、決めるのは難しいですね。
栗 2番のところから(7番の)牧選手ぐらいのところまで、いろいろな幅がある。タイプも違う。ただ、4番はまだ決めていないです。村上選手のように若くて、これからの日本を背負う選手に橋渡しをするような大会のような気もしているので。そんなメンバーの集まりで、主将についてはどうですか?
松 06年に投手をまとめていたのは大塚さん。09年は一応、自分が投手のキャプテンに指名されました。
栗 実は選手たちに主将を置くかどうか、聞いてみたんです。そうしたら「みんなやること分かってますから。言われなくてもやりますよ」と。だったら全員がキャプテン。自分で引っ張るつもりでやってもらってもいいのかな、と思って。みんながやりやすいなら置いた方がいい。
松 年齢関係なく言葉でチームを引き締められる選手がいてもいいような気もします。
栗 その意図もくんでやってくれそうな選手たちがいますね。キャプテンに関してはもう一度整理したい。
松 米国やドミニカ共和国などメンバーを発表しています。印象はいかがですか?
栗 強いチームに勝った方がいい。それに年々、みんなで大会を盛り上げようという雰囲気が出ている。野球好きな人にとっては面白い大会になりそうだし、楽しんでいただきたいというのはある。
松 でも、誰々が出てきて「わっ、楽しみ」というのはファンだけでいいと思います。第1回大会の米国戦でイチローさんが見ていて気になったと言っていました。「ジーターだ、Aロッドだ」「テレビで見た人だ」っていうのを。
栗 なるほど。
松 確かに米国の選手の存在感は凄い。でも名前負けしないでほしい。これから戦う相手に対してその感覚はいらないのかな、という感じはします。
栗 確かに!松坂さんが言っていることを本当に前提にしないと。「そうじゃねえんだ、こいつらやっつけに行くんだ」って。
松 第1回の時は、米国戦のイチローさんの先頭打者本塁打で、ファン目線で見ていた選手は目が覚めたと思うんですよ。そういう雰囲気を察したイチローさんの初球攻撃だったのか。雰囲気ががらっと変わった。「そうだ。俺たちは戦いに、勝ちにきたんだ」という気持ちにさせた一発だったと思いますね。
栗 松坂さんはもちろん06、09年と絶対に世界一になろうと思っていたんでしょう?
松 正直、負ける気は全くなかったですね。頭のいい選手は力量差を考えちゃったりというのもあるけど、自分は誰が相手でも、どんな国でも勝てると本当に信じていました。
栗 いやあ、それを聞けただけでうれしい。それが一番大きな言葉で、結局みんながそう思わなければ勝ちきれるわけがなくて。どこか不安だったら絶対にやられる。「今、今日、絶対に勝つんだ!」というのを繰り返していくだけ。それを我々は絶対に忘れちゃいけない。いいメッセージをもらいました。
松 第1回が王貞治監督で、第2回が原辰徳監督。凄く監督の思いというのが伝わって、考えとかが浸透したチームになった。だから栗山監督も熱い思いを選手にぶつけてほしいなと思いますね。
栗 3月までにまたいろいろと相談させてもらいます。よろしくお願いします。
◇松坂 大輔(まつざか・だいすけ)1980年(昭55)9月13日生まれ、東京都出身の42歳。横浜高では98年春夏の甲子園連覇。同年ドラフト1位で西武に入団した。99年に新人王。最多勝3度、最優秀防御率2度、最多奪三振4度などタイトルを獲得し、07年にレッドソックスに移籍。同年に世界一に輝いた。16年にソフトバンクで日本球界に復帰して中日、西武でプレーし21年限りで現役を引退。日米通算成績は377試合で170勝108敗2セーブ、防御率3.53。
◇栗山 英樹(くりやま・ひでき)1961年(昭36)4月26日生まれ、東京都出身の61歳。84年に東京学芸大からドラフト外でヤクルトに入団。89年に中堅手でゴールデングラブ賞を受賞。90年限りで現役を引退した。プロ通算成績は494試合で打率.279、7本塁打、67打点、23盗塁。引退後はスポーツキャスター、白鴎大教授などを務め、12~21年の10年間、日本ハム監督として大谷(エンゼルス)を二刀流として育てた。16年に日本一。21年11月から侍ジャパン監督。
≪連覇に貢献したイチロー氏が何度も話題に≫対談では06、09年の連覇に大きく貢献したイチロー氏が何度も話題に上がった。09年は韓国との決勝の延長10回に決勝打。直後のマリナーズの春季キャンプでは胃潰瘍で離脱した。極度の緊張感の中、心身ともに大きな負担がかかっていたはずだが、松坂氏は「(大会中は)普通だった。陰と陽なら陰の雰囲気は全く出さない。周りに気を使わせるようなことはなかったですね」と述懐。それを聞いた栗山監督は「凄いなあ。それは凄い。さすがだね」と何度もうなずいた。
【取材後記】対談のほとんどで松坂氏を質問攻めにする栗山監督の姿に、強い信念を感じた。
日本が連覇した06、09年大会で2大会連続MVPの松坂氏。当時、取材者として2大会で日本戦全てを生で見た栗山監督にとって、松坂氏の体験談はこれ以上ない「備え」につながる。
侍ジャパンの監督就任直後の21年12月。尊敬する名将・三原脩氏の墓参りをし、栗山監督は言った。「三原さんに“できる準備は全てやっておけ”と言われた気がする」。その日からあらゆる野球人の知恵を借りようとアマ野球を視察し、長嶋茂雄氏ら歴代の日本代表監督から世界で勝ちきるすべを聞いた。
対談後、栗山監督は松坂氏に「また連絡させてもらいます」と伝えた。できる準備はやり尽くす。ブレない信念がそこにあった。(専門委員・秋村 誠人)
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