広島・新井監督「ガムシャラに」「良い伝統絶対に継承」「4番打者育てたい」 山本浩二氏と新春対談(2)
(1)から続く。
――選手にどう声をかけるか。コミュニケーションは大事な監督の仕事の一つ。
山本 うん。担当コーチと一緒にな。ただな、自分を基準に話すのは良くない。失礼な話やけど、山本浩二はたくさんおらん。そこを認識しないと、カッカしてばっかりよ。何で、できんのか…と。
新井 (うなずく)
山本 そういう中で選手を観察してきた。キャンプで見続けているとね、ランニングしていても抜いていたら分かる。毎日続けると得るものがある。
新井 常に見るということですね。
山本 うん。気になったら話をしたり。
――新井監督も秋季キャンプでは選手を観察し、対話していた。
新井 さっきも言いましたが、初めての経験なので、選手を見ようと思って。見られていない部分はたくさんあると思いますけど。
山本 それはもう積み重ねやから。
新井 はい。今日はブルペンでこの投手が投げる。順番はどう。グラウンドでは(打撃の)ローテーションが始まる。どっちも見たいのに…と。そういうのがありました。
山本 そりゃもう割り切らないかんのよ。春もそう。同じよ。
新井 そうですね。
山本 ワシはね、クロ(黒田博樹)が投げ込む時は必ず付き合った。キャンプで300球ぐらい投げ込む日があるのよ。打席に立って励ますというのを何年か続けた。エースとして(期待して)、開幕投手に指名して。
新井 実際、黒田さんはエースに。
山本 (うなずき)100球で終わるかと思ったら、クロが“行きます!”と言って投げたのを覚えとるよ。結局、300球。それだけの力を持っている選手、やってもらわなきゃいかん選手の鍛え方には気を付けたかな。
新井 言葉で伝える以外にも、コミュニケーションを取る方法はあるということですよね。浩二さんがその場におられることで、黒田さんに(監督の期待が)伝わっている。
山本 そうそう。そうすると番記者もカメラマンも、全員集まる。大事なことなんよ。この選手に期待しているんだっていうね。
新井 黒田さんも覚えているでしょうね。
山本 覚えとるよ。開幕投手はアイツの誕生日に伝えたのよ。2月10日の朝、マッサージをしている時にこっそり。開幕だよって。
新井 初めてお聞きしました。
山本 で、最多勝のタイトルを獲ったろ。
新井 はい。2005年です。
山本 その時もクロと話をしてな。(10月7日ヤクルト戦)リリーフで行く…と。タイトルを獲ると気持ちが変わる。獲らなきゃいかん…と説得した。
新井 その話、お聞きしました。
山本 それまでは全て先発。本人は(救援登板が)嫌だったかもわからん。でも、絶対にタイトルを獲らさなきゃいかんと思った。
新井 大竹寛(現巨人巡回投手兼トレーニングコーチ補佐)が先発だったんですよ。
山本 そうか。
新井 神宮で僕が決勝打を打ったんです。だから、よく覚えているんです(笑い)
山本 ほーう。
新井 黒田さんは実直な方なので“寛に悪いし、どうなのかな”と言っていたんです。でも、今になって昔話をすると、浩二さんに感謝されています。タイトルは簡単に獲れない。ユニホームを脱いでも、ずっと残っていくものだし、やっぱり良かった…と。その話はよく聞きます。
山本 そうなんか。それなら良かったよ。
――新井監督の指導はどう映っていますか?
山本 ビックリしたのは、しっかり、しゃべっとるのよ。言葉を。
新井 (笑い)
山本 これはね、選手はウ~ンとなるよ。言葉にちょっとは計算が入っとるかも分からんが、新井の普通のしゃべり方なんだ。現役時代からの自然な。
新井 はい。
山本 これなら選手も納得というか、やる気を起こすと感じる。これは続けていく方がいい。自分なりの言葉でな。それと選手は監督が今どこにいるか、必ず見とるからな。
新井 (うなずく)
山本 誰の所へ行ったとか必ず見ていて、自分の所へ来るかな…とか思いながら練習しとる。そのことを頭に入れながら要所、要所で声を掛けてという感じでやっておけば。
新井 ありがとうございます。
――実際に秋季キャンプは活気があり、目の色が変わった選手もいました。手応えは?
新井 いや、そういう感覚はないですね。ただ、みんなが一生懸命。若手だけじゃなく、堂林、野間ら中堅の選手もすごく元気を出して練習していた。そういう姿を見てうれしかったのはあります。
山本 それでいいんじゃないの。評価するのは周りやから。
――選手に声を掛けるのは意識的に?
新井 浩二さんが言われたように、選手を見よう、見たいとは思っていましたけど、意識して声掛けはしていないです。素でやっているので。
山本 素や素(笑い)
新井 ハハハ。
山本 それが良いんだって。つくってしゃべると、聞いている者は分かるって。
新井 自分が現役の時にも、そう感じたことはありますね。
山本 だから自分の素でやるのが一番。ただ、みんな平等という気持ちがあったとしても、キャンプに入れば、そうはいかん。チームをつくるためには選手の技量、力を見極めないといかんのやから。
新井 その作業はすごく苦しいだろうなって想像しています。
山本 でも自分の力って、選手自身も分かるもんよ。勝負の世界やから、そこは割り切ってやるしかない。
新井 そうですね。
山本 2月のキャンプ、(両手を広げて)夢はこんなにあるよ。
新井 (笑い)
山本 それが終盤には、故障者や調子が上がらん選手が出たり。オープン戦になると構想の修正を余儀なくされ、開幕を迎える時は不安だらけよ。これは選手も一緒。1本打てるかどうかって。
新井 分かります。
山本 監督も勝てるかどうか不安だらけなんよ。でも、しょうがない。通る道やから。
――新井監督の野球は、どんな野球になると思われますか。
山本 今季のキャッチフレーズを、そのままやっていけばいいんじゃないか。ガムシャラに。ただ、足を使うカープの伝統は引き継がんといかん。一つでも前を狙う野球な。
新井 浩二さんが言われたことは100%(自分の中でも)思っています。先輩方が築かれた良い伝統は絶対に継承し、次の世代にも受け継いでもらわないと。強かった時のカープは走り回る野球でしたから。(古巣に復帰した)福地(寿樹2軍打撃兼走塁コーチ)さんも、全く同じことを言われていました。広島の伝統をなくしてはダメやって。
山本 ヘッドコーチには藤井(彰人)を指名したんやな。
新井 同学年だし、阪神で一緒にやっている時はシーズン中、食事をよく一緒に取ったんですね。その時はずっと野球の話。彼は捕手だったので、いろんなところを見ているんですよ。そんなところまで見て、そんなことまで考えているんだ…とか、話を聞くのが楽しかったです。
山本 ほーう。
新井 彼の広い視野や、深い考察を“すごいな”と感じていたので、球団から監督のお話を頂き、ヘッドはどうするんだ?と問われた時に、藤井でお願いします…と伝えました。
山本 ヘッドコーチはやっぱりね、一番相談できる人間でないと。最初(の監督時=89~93年)のヘッドは大下(剛史)さんよ(91年まで)。
新井 はい。
山本 厳しいけど、チームをつくるためにはこの人が必要だと思った。ワシの野球というものを、大下さんは考えてくれとった。やっぱりね、信頼のおける参謀は必要なのよ。
新井 意見を戦わせることができる。
山本 そうそう。
新井 投手交代はどうされていたんですか?
山本 結構、自分でやった。ワシは外野手だったけど、センターから見ていると、投手の後ろ姿に良い時、悪い時が出るのよ。あーもう疲れているな…とか、ここは代え時だ…とか思っとった。そういう経緯があったから結構、助言を受けずにやったね。でも、参謀が捕手なら、ある程度は相談してもいい。
新井 そうですね。
山本 ただな、ワシは監督が全部やらないといかんと思う。責任を負うんやから。相談はするよ。でも、最後に決めるのは自分。コーチに任せて成績が低迷したら、不信感を持ちかねん。関係がギクシャクするやろ。
新井 それはイメージできます。だったら相談し、助言を求めながら、最終的に自分はこう思うって決断した方が、コーチとのコミュニケーションも円滑に進むと思いますね。
山本 スタメンもそうよ。いろんな案が出ても最後は監督が決める。ワシはそうした。
新井 今のお話。僕が(本塁打王の)タイトルを獲った05年、東京ドームで開幕だったんですよ。当時はラロッカという好打者がいて、2戦目にケガをしたんですよね。で、3戦目に僕をサードで使ってもらって、その時に2本塁打して。
山本 おー、そうやった、そうやった。
新井 のちに聞いたんですが、周りのコーチ陣は別の選手を進言したけど、浩二さんが新井でいくと言われて、僕になった…と。
山本 新井と言ったかどうかは覚えていないけど、ラロッカがケガして、そこから試合に出たんだよな。
新井 はい。その話を引退後に聞いたんです。だから、余計に頭が上がらない(笑い)
――チームは過渡期にあります。現有戦力をどう見ていますか。
山本 過渡期だな。3連覇のメンバーが年齢を重ねてきているからな。土台をつくる、チームをつくらないといけない大変な時期。勝負の世界やから勝たないかんのやけど、勝とう勝とうと思うと縮こまる。新井の性格通り、のんびりでいいんじゃないの?(笑い)
新井 (笑い)
山本 ただ現状で投手力はもうひとつ。野手も若いのが、あまり出てきていないもんな。坂倉ぐらいやろ、出てきたのは。一昨年にサードを守った若手は?
新井 林ですね。
山本 あれだけ1軍の試合を経験(102試合に出場)したら、伸びてもおかしくないんやけどな。
新井 彼は昨季、1軍に一度も上がっていないです。
山本 足が遅いとか守備が良くないのなら、それ以上に打撃力を上げていけばいい。
新井 そうですね。
山本 急には伸びないから鍛えな(いと)いかん。毎日鍛えられ、本人が知らないうちに、うまくなっているのが、ワシらの若い頃。新井もそう。積み重ねよ。
新井 サード(候補として)は新外国人のマット・デビッドソンを獲ったんですが…。
山本 (日本に)来てからやろうな。
新井 はい。外国人選手は練習、オープン戦では判断できない。試合に出てみないと。それに浩二さんが言われた林。あとは二俣ですね。育成から(昨年11月)支配下になった若手がいて肩がすごく強いんです。
山本 ほーう。
新井 矢野とか足を使える選手も考えていますし、小園だってショート確定とは思っていません。チームを背負ってもらわなきゃいけない選手ですが、うかうかしていると…。競争してもらいます。
山本 小園は有望だけど、まだ少し甘さがある。ボール球も振るし。でも、ひと皮むけたら、すごい選手になるよ。もっと鍛えんと。
――坂倉を捕手一本にさせました。
山本 いいことやと思うよ。体力を使うやろうけど、そう決めたなら貫けばいい。
新井 坂倉本人の希望という報道がありましたが、その前から僕は捕手一本にしようと決めていました。大変だと思うんですよ。やることが多いし、ブランクもある。重労働だし。彼にとっても挑戦だと思いますね。
――投手陣は。先発は頭数が。
新井 まず手術した森下、床田には治すのが最優先で、無理に上げていく必要はないよ…と伝えています。焦って治りが遅くなるのが一番怖いので。
山本 昨季は床田(の離脱)が痛かったよな。手術してだいぶたつけど、(開幕に)間に合わないの?
新井 いや、普通にいけば間に合うというふうに聞いています。
――勝ちパターンの人選も喫緊の課題。
新井 そうですね。先発も育てないといけないんですが、栗林につなぐセットアッパーがまずは一番。そこは僕が我慢するところだと思いますし、今まで劣勢で投げていた投手も、勝ちゲームの展開で行かせるかもしれない。そこで逆転を許すこともあると思うんです。でも、使わないと育たない。浩二さんが言われたように、我慢して育てないといけないと思っています。
山本 日本人の4番打者も育てんとな。
新井 はい。4番打者やエースはチームの精神的な支柱でもあるので、しっかり育てたいと思いますね。
山本 候補はいそうでいない。鍛えて見極めないと。だから、いろいろ大変よ。でも、新井は現役時代、うまくいかない時でも、へこたれずに前を向いた。監督になっても新井らしい姿でチームを前進させてほしいな。
新井 ありがとうございます。ガムシャラに精いっぱい頑張ります。
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