打率、盗塁“2冠”日本ハム・松本剛から見える新庄野球「奇策」「突破」「許可」

[ 2022年5月20日 05:30 ]

積極打法のススメに感謝する松本剛
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 16勝26敗でリーグ最下位ながら常識にとらわれない采配を貫き、5月は7勝7敗と奮闘する日本ハムの新庄剛志監督(50)。その申し子がともにリーグトップの打率・377、14盗塁の松本剛外野手(28)だ。昨季までの10年間で規定打席到達はたった一度だが、くすぶっていた才能が11年目で一気に開花。今季ここまでのプレーなどを振り返ってもらい、新庄野球の神髄に迫った。(取材・構成 東尾 洋樹)

 【(1)5日・楽天戦(札幌D)同点の5回1死三塁から松本剛エンドラン】この時点で打率リーグトップ、得点圏打率が同2位の3番・松本剛が打席に立った。楽天の内野陣は前進守備。安打ゾーンが広がり、定石ならノーサインで打者に任せる場面だ。しかし、新庄監督はカウント2―0からエンドランを指示する。「ベンチは何とか1点取りたい。スクイズやセーフティースクイズでもいい中でバットに当ててくれる確率の方が高いという判断だと思う」と松本剛。平均球速141キロの直球と同129キロのスライダーの球速帯をイメージして待ったが、岸―炭谷のバッテリーが選択したのは松本剛が「まさか」と振り返った110キロカーブだった。体勢を崩され空振りし、三塁走者が挟殺プレーでタッチアウト。その直後の6回に失点して逆転負けした。「正直あそこで流れが変わった」と悔やんだ。

 【(2)11日・オリックス戦(札幌D)クイック遅いワゲスパックから5盗塁】新庄監督は就任1年目の今季を「トライアウト」と位置づけ、選手の対応力を試している。相手に“まさか”と思わせる奇策に、選手たちがどう対応するか。松本剛も「奇襲作戦が決まっている試合は流れがよくなっていることが多い。逆に決まらないと相手に一気にいかれる。僕らも試されている」と話す。

 新庄監督は事前の準備の大切さを選手に説く。ワゲスパックはこの試合が来日3試合目でデータは豊富ではなかったが、松本剛は「試合前に映像である程度(クイックを)確認して、いつ盗塁(のサイン)が出てもいい準備をしている」と振り返る。クイックは一般的に1・2秒台で合格点とされる中、右腕は1・2秒台後半~1・3秒台。相手の弱点を突いた好例となった。

 初回に中前打で出塁した松本剛が2番・中島のカウント0―2からの3球目に二盗に成功。二塁内野安打でつないだ中島も一、三塁となった3番・清宮の初球に二盗を決め、2得点につなげた。

 【(3)打者3人が3球でチェンジでもOK】松本剛がチーム全体に走る意識が根付いていると実感したのが3回2死一塁からのヌニエスの二盗だ。「クイックが遅いと分かった時に塁に出たらみんなが盗塁できると思っていたと思う。足が遅い選手も思うのはなかなかない」。決して俊足ではない大砲がノーサインで二盗。4回には再び松本剛、5回は浅間も二盗を決めた。盗塁が得点につながったのは初回のみだったが足で揺さぶり続け、5回までに5点を奪って攻略した。

 松本剛が「メンタルの持っていき方がうまい。気持ち的にやりやすい環境にしてくれている」と感謝する指揮官の積極打法のススメ。仮に回の先頭打者が初球で凡退した場合、「2球で2アウト」を避けるために次の打者は初球を打ちにいくことは少ない。ただ、相手は初球を甘い球でストライクを狙うことが多いため、絶好のチャンスでもある。新庄監督も「“(初球を打って)いい”と言ってくれている。特に僕みたいな長打が少ない打者の初球凡打は結構ダメージがくる。初球凡打なら何球か投げさせてからアウトになれよって素人目から見ても思うじゃないですか」と精神面の違いを口にする。

 ここまでファーストストライクから仕掛けた打席は打率・227だが、追い込まれるまでにスイングした打席は打率・386。松本剛も「初球から振ってファウルになったりすれば、タイミングが合っているかどうかが分かる。初球を振らなければ、それが2球目になる。直球だったら直球にしっかり絞って振るようになったし、探って初球からいくことがなくなった」と言う。チーム四球数は82と12球団で群を抜いて少ないが、裏を返せば積極打法が浸透していることを表す数字。新庄野球がより浸透すれば、巻き返しは可能だ。

 ≪首位打者獲得なら球団右打者初≫松本剛は打率、安打、盗塁がリーグトップ。過去、この3部門で同一シーズン1位は92年佐々木誠(ダイエー)、95年イチロー(オ)しかおらず、松本剛に史上3人目の期待がかかる。また、日本ハムの首位打者は張本勲の7度を最多に4人(13度)が獲得しているが、全て左打者。右打者の松本剛が手にすればチーム初めてになる。盗塁王は13年に陽岱鋼が球団史上初のタイトルとしたが、以後西川4度、中島1度と過去9シーズンで日本ハム勢が6度と目立って多い。松本剛も続くか。

 ≪割り切りスアート自己最多14盗塁≫ここまで松本剛は17年の自己最多6盗塁を上回る14盗塁を記録。大幅増の理由は新庄采配だ。変化球カウントと読んでサインを出すことで「失敗してもベンチの責任」と各選手が割り切ってスタートできるようになった。松本剛も「去年までは(スタートの判断を選手に任せる)グリーンライトが出ても一発でスタートを切れないことが多かった。“行け”とサインが出たら思い切りスタートを切るだけ。技術的な部分よりも気持ち的な部分が大きい」と感謝する。

 ◇松本 剛(まつもと・ごう)1993年(平5)8月11日生まれ、埼玉県出身の28歳。帝京では高校通算33本塁打を放ち、1年夏から甲子園に3度出場。11年ドラフト2位で日本ハム入りし、13年に1軍デビュー。15年に内野手から外野手に転向。17年10月に日本代表としてアジアチャンピオンシップに出場。今季年俸は2050万円。1メートル80、81キロ。右投げ右打ち。

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