「歴史の扉」の向こう側 女子高校野球史上初、甲子園での一戦に臨む神戸弘陵・石原監督の思い
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【内田雅也の広角追球】神戸弘陵女子硬式野球部監督、石原康司(61)は「大きな扉が開く」と歴史的な意味を感じていた。史上初めて甲子園球場で開催される第25回全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が23日に迫った。夕方5時プレーボールで、高知中央と優勝を争う。
「甲子園は聖地、それも男子の聖地でした。そこに女子が入れてもらえる。時代の流れでしょうか。歴史の扉が開いたんだと感じます。これまで苦労してきた多くの人びとへの感謝の思いを抱いています」
「感謝」は石原が監督就任以来、チームのスローガンとしてきた姿勢だった。同校グラウンドのベンチ掲示板には「ありがとう」の文字があふれる。15日に訪れた際には「甲子園まで10日 ありがとう[絵文字]」と、ニコニコマーク付きで記されていた(当時の予定では25日決勝だった)。
スローガンはほかに「素直」「全力」「継続」で「夢」の実現に向かう。バックネットには書道師範の資格を持つ石原直筆の「夢」の旗が掲げられていた。
ただ「甲子園なんて、夢にも思わなかった」。女子の夏の選手権大会は全国高校女子硬式野球連盟、丹波市の主催。1997年に第1回大会が東京都で行われ、第8回以降は兵庫県丹波市で開催されてきた。今春4月、決勝戦の甲子園開催が決まったと聞いても「信じられなかった」。
石原は神戸甲北の球児だった。県16強が最高で、甲子園は遠い夢だった。大阪体育大卒業後、創立間もない神戸弘陵に赴任し、野球部コーチに就いた。1989年夏、初の甲子園出場を果たし、試合前のシートノックで初めて甲子園のグラウンドに足を踏み入れた。
「真っ白でした」と言うのは超満員5万5千観衆が詰めかけたスタンドだけでなく、自身の頭の中もそうだった。「感激と緊張で震えました」
また、この場所に立ちたい、との思いで指導者生活を過ごしてきた。初舞台の感動が忘れられず、いま背負う背番号「71」は当時の「71回大会」を意味している。コーチで10年、監督を20年務め、春4回、夏1回、甲子園に導いた。
2014年、男子校から男女共学となり、創部された女子硬式野球部の監督に就いた。「ゼロからのスタート」だった。グラウンドの設備も手作り、娘を持つ父親だが女子の指導は分からないことばかりだった。
就任当初、交流のあった済美(愛媛)の上甲正典監督(同年9月他界)に「すばらしいじゃないか!」と励まされた。「いま、子どもの野球離れや、野球人気低落が問題になっている。女子選手たちが将来、母親になった時、子どもに野球をさせるだろう。どんどん、裾野が広がっていく。野球界のために、ぜひがんばってほしい」
自信がなく、悩んでいた石原は「うれしかったですね」と女子野球の可能性と未来にかける覚悟を決めた。
就任8年目。グラウンド脇には卒業部員全員の名前が刻まれたプレートが建つ。「ここで過ごした確かな日々の証しです。いつ帰ってきても、ここに自分の名前はある。友人や家族にも話せる」今はまだいないが、いつか、野球少年の子どもを連れたOGもやって来ることだろう。
目標に「全国制覇」を掲げてやってきた。初めて3学年がそろった2016年夏の選手権大会で初優勝。春の選抜大会も18、19年と連覇を果たした。女子プロ野球や阪神タイガースWomenで活躍する選手を輩出してきた。
「目標はもちろん優勝ですが、目的は野球を通じての人格形成です。社会に出て通用する立派な人間に育ってほしい」
グラウンドで出会った64人の部員は丁寧にこちらの目を見て、笑顔であいさつしてくれた。
投手兼遊撃手、3番を打つ島野愛友利(あゆり=3年)は中学3年時、大淀ボーイズのエースとして全日本中学野球選手権大会「ジャイアンツカップ」で優勝投手となった。いわば女子球界のスター選手だが、石原は「彼女は全く鼻にかけたところがない」と感心する。「取り組む姿勢は周囲の手本ですよ。人一倍努力します。かといって、野球ばかりでなく、おしゃれにも気をつかう。人として調和が取れているんです」
目の前で主将の小林芽生(めい=3年)が雨で水たまりができたグラウンドを整えていた。今春の選抜大会で傷めていた右膝が悪化した。中学時代以来3度目となる前十字靱帯断裂で「これ以上続けると歩行困難になる」との診断だった。
プレーはできなくなっても、小林は献身的にチームを支えてきた。甲子園での決勝進出を決めた今月1日の準決勝・京都両洋戦。試合後、小林の目に美しい涙と、そして笑顔が光っていた。
今年は「笑耐夢」(ショータイム)が合言葉。「甲子園で最高の恩返しを」と誓う。そして石原は「女子選手たちは純粋に懸命に白球を追っている。その魅力的な姿を多くの人に見てもらいたい」と、扉の向こう側にある未来を見ていた。 =敬称略= (編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 女子高校野球が年々熱気を帯び、甲子園球場で開催できれば……と望んでいた。歴史的な一戦の実現に多くの先人たちを思う。1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭―慶大卒。2007年からコラム『内田雅也の追球』を執筆。
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